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1948年にLeica II型の完全なコピーモデルとしてKMZで発売された「ZORKI (ゾルキー)」レンジファインダーカメラ向けに用意された標準レンズで、非常に希少性が高い最初期のZKモデル (後のJUPITER-3) 1948年製個体が今回の扱い品です。
当方の15年間のオーバーホール作業の中で、ロシアンレンズの扱いはそれほど多くありません。当方の印象として、1970年以前のロシアンレンズの多くは完全解体してみると、金属材の研削加工が明らかに同時期のドイツ製品とは比べられないほど粗い印象が強く、特に各構成パーツ間の連結や接触面すら、その仕上がりの検査に疑問が残るようなレベルと言えば、伝わるでしょうか。
しかしその中にあって、極初期のロシアンレンズの中には一部に「戦前ドイツ時代由来のモデル」に限定して遜色ない造りのモデルが隠れていました・・それが今回扱う「ZKシリーズ」です。
なおレンズ銘板の刻印を見ると数字の「3」が先頭に来ている「3K (サン・ケー)」のように見えますが、これはロシア語キリル文字なので「ЗК」と刻印しており、そのままラテン語/英語に1文字単位で文字変換すると「ZK」になるので、次の定義になります。
◉ 翻字
或る文字体系に属する文字を、意味や翻訳を介さず、規則に基づき別の文字体系へ対応付けて置き換える作業
※ここで言う翻字とは、言語学に於ける文字論・表記体系論での専門用語と実務です。
ちなみに15年間で扱った標準レンズ 5cm f/1.5は、KMZ製が今回扱う個体を含めて11本目、ZOMZ製6本のまま、VALDAI製1本のままと言う状況で、累計本数は僅か18本ですから、ある意味敬遠していたオールドレンズがロシアンレンズともご報告できます。ロシアンレンズ全体でも77本しか扱っていません。また実際に遭遇した事実として、ロシアンレンズは「何でもアリ」の世界なので、内部を削ったり切削までしていることも多く、個人的に敬遠を超えて「扱わない」と決めてしまいました。その中にあって唯一「ZKシリーズ」と「Jupiter-3シリーズ」だけが扱いを続けているモデルと言う位置づけです。
何しろ完全解体すると (一部解体でも同じですが) その途端に「当方の責任範疇」として扱われてしまう為、そのような不可抗力含め、そもそもの製品設計の悪さから起因するどうにもならない要素は、改善できずに瑕疵が残ったまま仕上げるしかありません。しかしそうすると、背後にクレーム感を匂わせるような印象のメールが着信するので、もう扱う気持ちがなくなりました。確かに当方の技術スキルの問題なのでしょうが、そのような上から目線の方々とのお付き合いに、正直、もう懲り懲りであり、自分の精神性を擦り減らしてまで扱うべきではないと覚悟しました。その意味で15年間、凡そ3,555本扱ってきた中で、まるで納得できなかった個体の数は両手指の数も満たしませんが「何とか改善した」ではなく「指摘していない瑕疵が現れた」ことに責任追及されることにはついに嫌気が差しました。
オールドレンズの内部とは、詰まるところ『チカラの伝達』しか存在しない世界なので、一部構成パーツに生ずる経年の摩耗は、その影響が他のパーツにも及ぶのが金属材の世界とも言い換えられます。従って問題箇所の構成パーツを改善したところで、また別の瑕疵が発現するのがリアルな現実世界なので、その中で右往左往しながら可能な限り仕上がり後に瑕疵が残らないよう、整合性に仕向けているだけにすぎません。そのように語ると今度は『本来在るべき姿』との言葉尻との対比を詰めてこられるような印象のメールが着信するのですが、確かにそれは人情としての「期待値」にしても、それを体現できなかった当方に責任追及されることに、もう心が耐えられなくなってしまったと言えばお伝えできるでしょうか。
それは技術スキルの低さに加えて、あ~だこ~だ言い訳を語ることに批判が集中するのでしょうが、ごまかしでも逃げでもなく、リアルな現実に問題箇所は100%特定できているものの「できることとできないことがある」点に、正直な話、ご納得頂けない方々とは距離を置きたくなったという心持でございます。
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この「ZKシリーズ」はその原型として、戦前ドイツで1932年に発売されたレンジファインダーカメラ「CONTAX I型」向けに用意された標準レンズの一つである「Sonnar 5cm f/1.5 (CRF)」が該当します。当方はこの非常にドイツ的なレンジファインダーカメラの意匠デザインにとても惚れ惚れしていますね・・。
そして何と言ってもその光学設計者が、彼の有名な「Ludwig Jakob Bertele (ルートヴィッヒ・ヤコブ・ベルテレ)」なので、その描写性については自ずと今だに人気の的なのが理解できます。
但しここで注意を要するのは、原型モデルの光学設計者はベルテレですが、旧ソ連時代に再設計された際の光学設計者は全く別人で、Михаил Дмитриевич Мальцев(Mikhail Dmitrievich Maltsev / ミハイル・ドミトリエヴィッチ・マルツェフ) でありロシア人です (それぞれロシア語キリル文字表記、ラテン文字翻字、日本語翻訳です)。なお何処ぞの有名サイトで表記しているMoltsevの表記は誤転写です (間違った転写です)。
再設計は「ZKシリーズ」の後に、特にドイツ敗戦時にCarl Zeiss Jena工場から接収した硝材原料が枯渇した際、1954年からソ連産の精製硝材に特化させた光学系として再設計した人物としても語られています (wiki)。従って戦前ドイツ時代にベルテレが、初めて光学設計して世に送り出した光学システムであると同時に、戦後は当時のソ連に於いて、二人目の光学設計者の介在によって別系統で発展していった経緯であることが理解できるのです。
・・するとこの時、キリル文字表記と翻字と翻訳、そして誤転写という4つの違いを、明確に理解できているでしょうか??? 残念ながら当方はまるで理解できていませんでした!(恥)
言語と文字体系とは ― ZK問題に前提条件が存在することの意識 ―
・・つまり、ここで一度立ち止まる必要があったのです!
日本語話者である私たちは、長い教育過程の中で「英語」という言語と「A~Zで書かれた文字」を、ほぼ無意識に同一のものとして受け取ってきました。英語は英語であり、その文字は英語の文字である・・この認識は日常生活では何の不都合も生みませんが、ロシア語とキリル文字を扱う段階に入った途端、説明と納得の前提としてその理解は瞬時に破綻してしまいます。
ロシアンレンズを語るサイトは数多くありますが、実はこの点についてまともな解説に試みたサイトが、やはり一つもないのです。従って、おそらくとても多くの人、特に日本人が誤認したままに (気づかずに ) 読み飛ばしているのではないかと、今回当方自身がまるで誤認していた結果、気づけたのです (だから今、語っているのです)!
・・面倒ですがぜひ最後までお読み下さいませ。結果的に日本人に対する罠だからです。
ロシア語は言語であり、キリル文字は文字体系です。ここで重要なのは、文字体系は特定の言語に専属するものではなく、あくまで「文字の集合とその対応規則」であるという点だけの定義であり、それ以上でも以下でもありません! しかしこの点を既に当方は見誤っていました。つまり英語=英語の文字 (A〜Z)と認知していたのですが、真実は「英語→ラテン文字表記」という関係だったのです (しかも等号で結ばれない)。
例えばラテン文字は、英語だけでなく、フランス語、ドイツ語、スペイン語、イタリア語、ポーランド語、チェコ語、ベトナム語など、地理的にも系統的にも異なる多数の言語で共通して用いられています (多民族国家、ひいてはヨーロッパでは当たり前の認識)。
ところが日本の教育では「ラテン文字という文字体系そのものを独立した対象として学ぶ機会」がまずありません。その結果A~Zは「英語の文字」としてのみ認識され「ラテン文字」という概念が意識の外側に置かれたままになっていたのです。つまり当方の誤認識の本質は「英文字=ラテン文字」との間違った認識であり、それは本来言語体系と文字体系は同義にならず全く別の体系であるべきところ、自身の体験値からのみ捉えてしまって、このような基礎的な大きなミスを犯していた点なのです。つまり言語体系は「英語」表記の文字体系は「ラテン文字」従ってそこに「英文字」という概念そのモノが存在しないのが専門界での受け取りなので「英文字」と表記したり意識した時点で、既に破綻していたのです。
・・これを以て、恥ずかしいと言わずして、何としましょうかッ。
これは正式な表現にこだわった時の話なのですが、例えば日常会話内で「英文字」と語ってしまった時点で、実は人間の意識層として「自ら間違いだと認知している表現は、決して自分から語らない」との前提に立つと、例えば今回の例のように「キリル文字のラテン文字表記」の時「キリル文字を英文字に変換して・・」などと課題設定された時に、この今の前述内容がそっくりそのまま体現されます。
つまり認知できている人が受ける (変換する) 立場なら、きっとこう言うハズなのです。「分かったヤルョ、(でもね、英文字とか言わないけどね)」そう言って、可能な限り自分の正当性を担保しつつも、できるだけ場の雰囲気を壊さないよう配慮しながら作業に臨むと思うのです。おそらく多くの場合で「 ( ) 」で囲った部分は自分の心の中で語っていた内容なのだと思います(笑) するとこの時、その課題提供者は、そもそも「英文字」との表現が間違っていること自体をまるで認識していません。もっと言うなら自身の体験値としてもおそらく空気の存在の如く「英文字」或いは「英語文字」との表現は、自分の固定観念として自然認識されているのが本当なのではないでしょうか??? そうだとすると、結局は「英文字」や「英語文字」と表現している会話が成立している時点で、その会話に参加していた多くの人達の中では「誤認」が誤認ではなくなっていることが必然であり当然との受け取りだったことに道理が通ります。
これがラテン文字という学習と教育を世界の中で唯一受けてこなかった日本とニッポン人の問題なのではないでしょうか。その一方で、世界中のとても多くの国々と民族は、生まれてから言葉を覚えていく過程で、既にラテン文字の知覚が意識層に確実に植え付けられているのだと思うのです。結果、外国人は単にそれぞれの国家言語 (民族言語) に対して、その綴の規則性/ルールを認知して対応することができるので、マルチリンガル (多国言語話者) にすぐ到達できるのだと思います。
これをそっくりそのまま日本語に置き換えて妄想してみればよ〜く分かります(笑) 世界の各国は漢字とひらかなにカタカナを追加、一部ではローマ字も使う。その中にあって「侘び寂び」の隠された感情表現を行間に表現する文化を養ったのは日本だけとします。この時、各国の言語体系はほぼ同列/同格の文字体系として認識できる為、各国の会話ルールを覚えるだけで、世界中の言語を扱うことが容易になります・・そうやって考えてみると、どういうことなのかがみえてきます・・ラテン文字、恐るべし!
この前提のままキリル文字に向き合うと、皆さんは提示される表記がどの文字体系に属するのかを判断するための手掛かりを持たないまま読み進めることになります。結果として表記の誤用や変換の間違いに気づかないまま読み進めてしまいます。ここで初めて、言語と文字を分けて扱う必要性が表面化します。つまりこれは、ラテン文字という概念が、私たち日本人の意識層において、学習や教育として体系的に組み込まれていないことに起因する問題点なのです。何故なら、よほどキリル文字を学んで熟知している人でない限り、そのラテン語への翻字はスラスラ表せないはずなのです。従って、キリル文字から間違ったラテン文字へ翻字されてしまい、それに気づかないままに今度は日本語翻訳機能を使って日本語に訳して納得していたりする内容が、実は現時点で既にネット上のサイト解説内で氾濫している事実に遭遇しています。後で解説しますが、良い例が「蒸着コーティング層の表記」です。まるで間違った捉え方のままにキリル文字を扱い、間違った受け取りのままに、ロシア語を翻訳できたつもりになっているのです・・。
・・これはレンズ銘板に刻印されている「П」を指しています。
もっと言えば、前述の誤転写は、そもそも学者の説明文の中で発生していた誤転写であり、学者でありながらニッポン人であるが故に、致命的な (学者らしからぬ) 誤用を犯していたことに通じてしまいますし、そもそも転写という手法を使っていた時点で、言語体系と文字体系、そして転写の必要性と翻字の正当性が両立できていません (誤認/誤用していた当方が偉そうなことを指摘できませんが)(汗) そのような事情に鑑みた時、まさに日本の言語教育と文字体系の学習に、実は誤用/誤認の本質が隠されているように、当方は感じ取ったので御座います。
この段階で実際に起きているのは、文字体系の違いを意識しないまま、何らかの「変換」作業が先に行われてしまっているという状況です。しかもその変換が、英語という言語への変換なのか、それとも文字を文字として別の文字体系へ置き換える操作なのかの区別が成されていません。つまりこの時点では、言語同士の変換なのか、文字同士の変換なのかという「区別の基準」そのものが、明確に意識されていない状態にあると指摘できるのです・・この段階で何を語っているのか、ご理解頂けているでしょうか (ここでご理解頂けている方は、前のほうで解説してきた内容を既に理解している人達です)。
・・当方は恥ずかしながら、この段階ですら何を言っているのか理解できませんでした。
つまりロシア語のキリル文字 (表記) である「ЗК」を英語に翻訳した時、この齟齬が表面化してしまい、AIから齟齬を指摘されたことで一気に「???」に陥ったのです。AIがマジッな顔をして真剣に指摘してきた時の印象と言ったら、今はまるで笑い話です・・、「え? 何を言ってるんだ??? 何が間違ってる??? こいつ壊れたのか???」ってな感じです。正直、この時に初めて「ホントだ!AIはあてにならない!」と確信しました。
その結果、発音、すなわち音に基づく操作と、文字を文字として対応させる操作とが同一視され、本来異なる変換であるはずの「転写」と「翻字」は概念として理解されないままに、操作だけが混用された状態で受け取られてしまいます。その到達する先は、言語の違いと文字の違い、さらに変換作業そのものが一つに重ね合わされ、認知の中で自覚されないままに混同 (混用) が発生している状況と指摘できます。
この混用が解消されない限り、キリル文字をA~Zで表す行為が、英語という言語への変換なのか、それとも文字体系そのものの置き換えなのかという違いを、納得のいく形で説明することには到達できていないことを、今語っています。そしてその誤認/誤用、或いは混同のままに拡散し続けていくことを、今述べているのです。
ここで初めて、言語そのもの、文字体系、そして両者の間に介在する変換作業を、それぞれ切り分けて扱う必要性が明確になります。そしてこの切り分けが成立した時点で、音韻に基づいて変換する転写と、文字体系間で対応させる翻字との明確な相違点も、はじめて理解可能に到達できるのです。
実際恥ずかしい当方の一例として、今回の「ZKの光学設計者の名前」探索でのChatGPTとの会話内容の一部をここに掲出し、皆様に痴話として共有させて頂きます・・(恥)
(当方):ではこのキリル文字の光学設計者の名前「Мальцев」を英文字に変換して。
(ChatGPT):(プロトコル内で誤認を是正して、ラテン文字変換実施) Maltsev です。
(当方):ネット上で掲示されている名前と違うのは何故か (a→oの違いを指している)。
(ChatGPT):それは誤転写です。
(当方):どうして自動翻訳がミスるのか??? 別の理由が介在しているハズだ。
(ChatGPT):介在していません。翻訳していません。
(当方):何? 翻訳せずしてどうして英文字が並ぶのだ???
(ChatGPT):翻訳していません。英文字でもありません。
(当方):お前何言ってんだ???
(ChatGPT):転写と翻字と翻訳は別の体系です。明確な指示がなく私が判断しました。
(当方):なッ。何??? 何を言っているのかまるで分からない!
(ChatGPT):あなたは転写と翻字と翻訳を混同、或いは混用して不適切指示しています。
(当方):お前よりGoogle翻訳のほうがまるで賢い!ちゃんと英語に翻訳できる!
(ChatGPT):Google翻訳で英語に翻訳するのは言語翻訳であり、文字は関係ありません。
(当方):いったい英語=英文字の何が違うのだ??? お前の解答は全く理解できない!
(ChatGPT):等号で結べません。英文字も存在しません。英語の表記はラテン文字です。・・こんな感じで当方の誤認と誤用の全てがスタートしたのです・・(恥)
・・ここから1日以上の時間を費やして、当方意識の誤認と誤用を駆除してくれたのです。
・・まさに当方は、ゴキブリホイホイ状態であり、完璧に捕縛されていました!(恥)
・・恥ずかしながら、脚プルプル状態で、絶命まで残り僅かの状態でした(恥)このように今回のキリル文字からの変換作業には、実は日本人が陥りやすいトラップが仕掛けられていたにも関わらず、それは「まさにニッポン人だけ」にしか有効化しない自動式のトラップだったと言えるのではないでしょうか・・(笑) まさに笑い話です。
・・要は言語体系と文字体系は同一土俵でなく、それぞれ言語学と文字論に分かれる!
◉ 翻字
音や意味を介さず、ある文字体系の文字を、別の文字体系の文字へ1対1で規則的に対応させる変換操作を指す。ここでは発音の自然さは必要なく、文字同士の一対一対応が最優先される。結果、逆翻字が成立する (成立しないことが証明されない)。◉ 転写
ある言語の発音、すなわち音を基準として別の文字体系でその音を表そうとする変換操作を指す。音韻の近似が優先されるため、必ずしも元の綴り構造は保持されず、逆転写が崩れる懸念が残る (これは事実として現実に起きている)。この切り分けが成立すると、次に見えてくるのが転写と翻字の違いです。キリル文字をA~Zで表記する行為は、英語に変換しているのではなく、ラテン文字という文字体系へ置き換えているに過ぎないと既に理解できています。
この段階で、英語という言語と、英語で使われている文字がラテン文字であるという事実が分離されます。英語はラテン文字で書かれる言語の一つであり、ラテン文字そのものは英語専用の文字ではありません。この理解に至って初めて、キリル文字からの変換は「英語転写」ではなく「ラテン文字翻字」と呼ばれるべき理由が明確になったのです。
同時に、日本語表記は翻字ではなく翻訳であることも整理されます。キリル文字表記、ラテン文字翻字、日本語翻訳という三つの表記は、それぞれ異なる操作の結果であり、しかも互いに代替関係にはありません (ここが非常に重要です)。従って前述した、キリル文字の光学設計者名である Maltsev を Moltsev と表記する行為は、音に基づく対応を誤った結果であり、誤転写と呼ばれることになり、翻字によってのみ互いの文字体系下で一意の関係であるため逆翻字が成立しますが、転写は一意に成立せず普通は使用しません。
ここまで整理して初めて「なぜZKなのか」という問題に進むための地盤が整います。ZKという表記は、言語の問題ではなく、文字体系の問題として扱われるべき対象なのです!
だからこその日本語という例外的体系 ― 複数文字体系と文化醸成 ―
日本語は、漢字・ひらがな・カタカナという三つの文字体系を日常的に併用して成立している言語です。さらに必要に応じてローマ字も加わり、状況によっては四つの文字体系が同時に存在し、混用される環境で私たちは普段の日常生活を違和感なく送っています。
このように複数の文字体系を無意識に切り替えながら運用する言語環境は、実は世界的に見ても極めて例外的です。日本語は、言語と文字体系、さらに文化的文脈が高度に重なり合った、文字運用の点に於いても・・唯一無二の体系だと言えるのです。
実際、確かに2つの文字体系が併用されている国は幾つか世界の中に顕在しますが、しかし混用される国は一つも存在しないのです。
さらに日本語には、意味を言語化し尽くさずに「余白や暗黙の了解を共有する文化的前提」・・いわゆる「侘び寂び」に象徴される感性・・が長い歴史の中で底流として存在しています。このため日本語では、文字による明示的記述だけでなく、文脈や沈黙、行間までもが意味伝達の一部として機能しています。この点が他言語諸国の人達にとっては未知の世界であり、難しいと語られている所以なのです。
・・まさに前の段落で語ってきた内容そのモノなのです。
このような言語環境で育った日本語話者にとって、言語と文字体系を厳密に切り分けて捉える発想が直感的に気づきにくいのは、むしろ自然なことなのです。しかしだからこそ、ロシア語とキリル文字、英語とラテン文字、そして翻字と転写を区別して理解することは、このZK問題を正しく読み解くための・・最低限不可欠な前提条件とみなせるのです!
話を戻します。ソ連でCarl Zeiss Jena工場から接収した資材が使われていた期間は、CIAのリポート報告内容から1946年〜1952年の期間とされ、実際にマルツェフによるソ連産硝材への最適化の開始は1954年との話になっています (実際の量産品投入時期は1955年から開始)。
するとここで問題になったのが「接収した硝材との記述は、原材料だったのか精製済み硝材だったのか」という問題に変わります。つまり光学ガラスレンズの硝材とは堆積物なので、溶融炉に原材料を投入し1,400℃以上の高温度帯で溶かした後に、何回かに分けた徐冷と再加熱を繰り返す中で堆積物として精製されたのが硝材であり、その後に研削機械と研磨機械を使って仕上げたのが光学ガラスレンズと言う流れですから、最初の原材料時点から無色透明だった話ではありません。
その一方で原材料はなにもドイツ敗戦時のCarl Zeiss Jena工場から接収した材料だけしか使えない話ではなく、実際原料が不足してチェコスロバキアからも輸入していた経緯がCIAリポートには記されていました。これらの情報を勘案すると接収したのは原材料ではなく「硝材そのモノ」との結論づけに到達しました。つまり「ZKシリーズ」及び初期段階のJupiter-3に実装していた光学系の光学ガラスレンズに使われていた硝材は「ドイツ敗戦時に接収した硝材の在庫品」を活用していたとの結論に至ったことになりますから、1955年以降のJupiter-3からがソ連産の硝材との特定に繋がることを意味しています (但し1954年時点でも少量生産していたことが確認できているため、実際のソ連産硝材を実装した製品は、1954年から一部登場していたとの推測になっています)。
・・つまりドイツから接収した硝材の使用期間は、1953年いっぱいに結論づけできるのです。
こういう要素はどうでも良いかも知れませんが、Carl Zeiss Jenaの硝材なのかどうかに価値を抱くのも、或る意味「価値観の問題意識」要素の一つなので、蔑ろにもできません。それはオールドレンズに対して、その何処に価値観を見出すのかは人それぞれなので限定できないからです。実際ドイツ敗戦時のCarl Zeiss Jenaの工場に装備していた溶融炉は16基あり、そのうちの14基がソ連の各工場に解体の後に搬送されているものの、その解体と搬送作業は実際に従事したのがドイツ人技師達であるものの、作業員の多くはソ連軍兵士とドイツ兵捕虜とのことから、不適切であったことがCIAリポートに記載されていました。
さらにこの解体および搬送作業が不適切であったと評価されている点については、単に人的構成の問題に留まらず、溶融炉という極めて精密な温度制御と構造再現性を要求される設備が、現地で完全に同一条件のまま再据付され得なかった可能性を示唆しています。溶融炉は炉壁材、耐火煉瓦の積層構成、加熱系、温度分布、徐冷条件まで含め一体として設計・調整されるべき装置であり、その解体と再構築の過程で生じた誤差は、最終的に得られる硝材の均質性や光学特性に影響を及ぼしたとしても不自然ではありません。この点を踏まえると、1954年半ば以降に実施されたソ連産硝材への最適化を目的とした再設計は、単なる原料切替ではなく、設備条件の変化を前提とした技術的対応 (といえば格好良いですが、実のところ光学設計を再計算せざるを得なかった) であったとも、読み替えることが可能になるのではないでしょうか・・。
※参考資料:このブログ内で参照しているCIAリポートのファイルです。
▪CIA-RDP80-00810A002000180002
▪CIA-RDP80-00810A004200650007
▪CIA-RDP81-01030R000100140004
▪CIA-RDP81-01030R000100140003
▪CIA-RDP82-00457R015300400001
▪CIA-RDP82-00457R004200180006
▪CIA-RDP82-00457R000400690010
▪CIA-RDP82-00457R015800010001
硝材品質で問題になる項目とは ― 均質性と欠陥の種類 ―
光学用硝材の品質差として最初に表面化するのは、屈折率の空間分布がどれだけ一定か (屈折率均質性) と、短距離の屈折率ムラであるストリーエ (striae) 、さらに気泡・介在物です。ストリーエは屈折率均質性の短距離変動として定義され、製造過程の要因で発生し、光学性能を低下させます。気泡も同様に、部材としての光学品質を損なう欠陥として本来は扱われるべき要素です (但し結像描写には出現しにくい/逆に玉ボケなどにはその影が写り込みやすい)。
SCHOTT側の提示内容 ― 均質性を数値で扱うという前提 ―
戦前から続くドイツ側SCHOTT社 (硝材製造メーカー) は「屈折率均質性」を品質特性として前面に置き、屈折率変動を極めて小さい値で達成できる旨をちゃんと明記しています。また、均質性 (homogeneity) の扱いを技術文書として整理し、同一の光学ガラスレンズでも寸法や要求等級により達成可能範囲が変わる枠組みを示しています。これにより、設計側は「ガラスカタログ値が同じでも、均質性等級の違いが像性能へ効く」という前提を取りやすくなり、光学設計時の光線制御に効果的に配置できることが保証されているのです。つまり光学ガラスレンズの原料である硝材製造メーカー側が、その品質保証を担保しているという社会通念に立脚している話をしています。
ソ連側 (GOST) が示す枠組み ― 測定方法としての光学的均質性 ―
一方ソ連側は GOST (旧ソ連およびロシア圏に於ける国家規格体系であり、工業製品の品質・試験方法・許容範囲などを統一的に定めた標準規格で、日本に於けるJISに相当します) で、無色な光学ガラスの「光学的均質性」をコリメータ装置等で評価する方法を規格として定義しています。これは DIN (Deutsches Institut für Normung:ドイツ工業規格) や ISO (International Organization for Standardization:国際標準化機構) を含む国際通念に於いては、本来硝材メーカー側が品質保証として担保義務を負う「均質性」を、ソ連側では製造段階で保証できなかった為その代替として「均質性の測定方法と判定基準を規格本文の中に明記し、硝材を採用する側に対して、その規格定義に沿った検査と等級判定を前提条件として課している」点です。従って設計側は、材料の採用に際して、カタログ値 (屈折率・分散) だけで判断することは許されず、GOST に於いて定義された測定手法に基づいて均質性を検査し、その等級を確認した上で硝材を採用するという運用を、事実上義務付けられているという構造になっています。
簡単に言うなら、GOSTが均質性の測定手順と等級運用を規格として明文化しているのは、ソ連産硝材では均質性を設計段階で無条件に信用できず、設計者が材料採用時に必ず均質性を確認し、その制約を光学設計に織り込まなければ、量産時の性能再現が成立しなかったためです。つまりこの事実こそ (規定に明文化されている) が、実はロシアンレンズの結像描写が大きく原型モデルと相違している本質なのです。少なくとも当方はそのように認知しました (何故なら規格規定内に明文化しているくらいだから)。
ちなみに当時の中国も全く同じで GB (国標/Guobiao:中国国家標準) という工業規格でしたが、これはソ連のGOSTとほぼ同一です。
・・規格文章内に手続きと手順を明記している「規格」など、まるでオドロキでしかありません。
つまりそこに西側諸国との規格概念の偏向が如実に見受けられ、且つその責務を製造側に置けなかったという本質があり、そこにこそ実は「国家体制社会」という構造が関わっていたと認識できるのです。たかがオールドレンズの話とは言え、さすがにオールドレンズそのモノが工業製品である以上、当時の国家体制社会の構造的な問題が、このように当時の西欧諸国との比較であからさまな相違点として現れることを、皆様も時には認識して捉え直すのも、良いかも知れません・・。
しかしこの点をちゃんと納得できるまで探索し研究したサイトが、ネット上には何処にもありません。これが近似した光学設計を採っているにも関わらず (硝材もほぼ同質なのに) その描写性が大きく異なる本質である点に、全く触れていないリアルな現実なのです。当方はこういう贔屓目の操作が大キライです。但しこの点について明確に言うなら、この描写性の違いがそのまま優劣には繋がらないという点です。ここに齟齬を生じてしまうと描写性の把握にそもそもその方向性が本質的に逸脱します。
従って当方が語りたいのは、接収したSCHOTT製硝材からソ連産硝材に移行したタイミングで、光学設計に於ける一つの前提条件が大きく影響を受け変わったことを、その描写性に注目する立場側が「意識的に把握する必要がある」と言う前提部分の指摘です。逆に言うならソ連産硝材を使いながらもSonnarと同格レベルまで追求を試みることは、残念ながら当時は不可能だったことが読み取られるという話なのです。非常に紛らわしい解説を試みているので、ここに単なる優劣差を指摘する主旨を該当させないよう、お願いしたいところです。結像描写の嗜好云々を排除してもなお、優劣差を顕在化させる方向性に仕向けてしまうと、話の内容は別の方向に歪曲が始まるという或る意味警告です。
ではその真逆の想定で検証するならどういう話になるのかと言えば、まさに精製硝材に対する疑念の必要がない光学設計と製品設計の結果と言うなら、それはLomographyとZENITが協業して2010年に限定数販売で市場投入した「New Jupiter 3+ 50mm f/1.5 Art lens (L39)」と言う製品を手に取る手もあるのですが、正直、資金をちゃんと投入して挑んだ成果であれば相当な魅力になっていたと考えられますが、しかし残念なことにその描写性をチェックすると明確な特徴が確認できてしまったのです・・。
Lomography側や当時の雑誌記事などでの語り草では「当時と同じガラスを使い、同一光学設計」と記されることが多いですが、残念ながらその光学系構成図を見ると曲率も厚みも空間配置距離も何もかも別モノです。さらに指摘するなら「当時」と語っているとその当時が1930年代を指すが如く記されていますが、正直その当時の硝材を現代で再精製してまで硝材を準備するのは、よほどの資金を注ぎ込まなければ不可能です。何故なら、溶融炉がありません! 仕方ないので現代の特に生産したZENIT側所有の溶融炉を使い精製するにしても大規模な資金投入が必然です。つまりは端的に言ってしまえば、既に完成している (用意されている) 硝材候補群の中から「近似値 (最低限屈折率とアッベ数) を単に選択しただけ」的に受け取られるのです。
逆に言えば、硝材の選択とはそれほど厳しく辛く極限の数値世界で特定していく話なので、現在調べられれる幾つかの硝材メーカーの硝材カタログを紐解けば、どんだけの数値が一覧で示されているのか一目瞭然です。つまり当方が言いたいのは、限定数販売にしても対価を補う分の価格設定ができないなら、それは自動的に硝材選定の妥協と、光学設計の複数回再計算に限定が同時に設定されていた環境下でのみ実行された製品と受け取らざるを得ないと言っているのです。

↑上の光学系構成図は次のような内容になっています。
㊧:ZK 5cm f/1.5 П (LTM) 1948年製個体の実測値に基づくトレースした光学系構成図
㊨:Jupiter-3+ 50mm f/1.5 Art lens (2010年版) のネット上に掲載されていた光学系構成図から、当方がトレースした光学系構成図
一見パッと見ではまるで同一のように見えがちですが、しかし光学系構成図の捉え方が理解できていると・・注目する箇所は変わるのです。光学系構成図を『カタチ』からのみ捉えてしまう危険性を、今この段階でご理解頂けるでしょうか・・。
※Jupiter-3+が好きな方々には大変申し訳ございません! お詫び申し上げます。しかし光学設計だけは外せないのです (描写がまるで違うので)。そうしないと、次から次へと受け取りの偏重が続き、期待とは裏腹の入手に落胆を招くことになります。
(実際に以前この落胆の中にあって、当方に理由と根拠の救いを求められた方が居たので、ここで語りました)
背景ボケ差を生む構造的要因 ― 絞り位置と後群の実効使用範囲の違い ―
前述してきた1948年生産の ZK 5cm f/1.5 と、 2010年生産の Jupiter-3+ 50mm f/1.5 Art lens を比較した場合「背景ボケの質に差が生じる主因」として指摘できるのは、絞り羽根配置位置と、それによって規定される 後群の実効使用範囲 (後群レンズのうち、実際に光が通過し結像形成に使われている領域:有効径と呼ぶ) です。背景ボケは、光軸近傍の光線だけで形成されるものではなく、主として軸外光線 (光軸から離れた周辺域を通過する光線) が、後群にどの程度到達しているかによって性質が決まります。
ZK では絞り羽根が後群直前に配置され、後群有効径 (実際に結像に使われるレンズ径) のほぼ全域に光束が到達する構成となっているため、焦点外像に於ける輝度分布 (ボケ円内部から周縁までの光量変化) が連続的となっていて、背景ボケは境界が崩れた溶解方向の描写になります。一方、Jupiter-3+ では、後群側から見た絞り羽根の有効径 (後群へ進む光束を規定する開口径) が ZK より小さく描かれており、後群に到達する以前の位置で軸外光線 (光軸から離れた周辺光線) が物理的に制限されるため、ボケ像の外側に近づくにつれて明るさが急に落ち、境界がはっきりと見える状態になります (つまりエッジが誇張的に残ることを指しています)。これをイメージするなら、絞り羽根を閉じていくと、次第に解像感が上がったように見られることを思い浮かべると、ご理解頂けるのではないでしょうか。
このように焦点外像の外縁部に光量が集中しやすい条件では、前後の焦点外像で輪郭が強調され、結果として二線ボケ傾向 (ボケの縁が二重の線として知覚されやすい状態) へ移行します。その結果、背景ボケには明確な輪郭が残る描写が現れます。また、この光束制御の違いは球面収差 (入射位置により結像位置がずれる収差) の像外挙動にも影響し、ZK では焦点外側での収差の影響が広く残ることでボケ境界が拡散していく方向性であるのに対し、Jupiter-3+ ではこの外縁強調が持続することで、背景ボケが締まって見える一方、二線ボケ方向の性質を明確に帯びてきます。
これらの相違点は光線光路を数値的に追跡しなくても、光学系構成図に示される絞り位置と後群の実効使用範囲、そして実際の結像描写結果を対応させることで、光学設計面と描写性の差としては一貫して説明できてしまうのです (だから光学系構成図の理解は必要なのです)。
従って残念ながら、このような環境下で同一光学設計を謳って、或いは改善したと宣言しながら発売しているモデルが、実はどこぞの国の製品だったりしますから、描写性をチェックした際、まさにその写りに匹敵する印象を「特に背景ボケのエッジ表現に感じ取った」点で、当方にとってはもうその段階で致命的だったのです。
何故なら、1955年以降登場したJupiter-3の写りのほうが明らかに背景ボケは滲んでキレイに溶けていたからです。ベルテレが光学設計した、例えば最終段階の光学設計たる1952年の特許出願申請書を紐解いても、その描写性は「周辺域までの均質な制御」が貫かれていましたから、いくらソ連製硝材にしてもJupiter-3の写りにはその反映が残されていると受け取られるのです・・残念ながら「New Jupiter 3+ 50mm f/1.5 Art lens (L39)」にはそれが確認できません。だからこそ当方の印象としては「単に現代に再生産しただけ」であり、硝材も光学設計もその根拠にはなっていないと受け取ったのです。その意味で語るなら、謳い文句を鵜呑みにして期待値を増大させると、痛い目を味わうことになるやも知れません・・。
これは或る意味、どこぞの国内メーカーが既に長年ヤッている販売手法で、当時の光学設計の継承を謳いながらも、実はその写りにはその原型光学設計すら再現できていないままに「その光学メーカーの写りを見させられているだけ」と言う点に、前段として謳い文句が重ね合わされている製品群を知ることができますから、国内生産という点だけが褒められるにしても、或る意味ヤッている側面の角度はどこぞの国の手法とたいして変わりません。もしもオリジナルの光学設計を継承していると謳うなら「最低限のどの描写特徴部分について継承したのか」を明確に描写性として体現させない限り、真実味も説得力もなく、単に緻密なだけの写りを見せられても、とても当方は納得できませんね。それは今回のようにベルテレの光学設計となれば余計にこだわりたくなる要素のハズで、それを蔑ろにしたまま宣伝文句だけ独り歩きしていても、当方は靡く気持ちになりませんッ。
如何でしょうか・・。これらの考察は実際にネット上で確認できる「New Jupiter 3+ 50mm f/1.5 Art lens (L39)」の実写をチェックしてみれば確認できると思いますが、光学系構成図から事前に捉えることも適うのです。当方は実写を見た際、背景ボケのエッジが残る印象に即座に反応し「これは、まるでJupiter-3の描写とは別次元の描写だ!」と印象し、それで光学系構成図を確認した結果、絞り羽根の位置を知り、上の考察に到達した次第です。逆に言うなら、どうしてJupiter-3+では、絞り羽根の位置をこのようにセットしたのかと言えば、それは光学ガラスレンズ以前に硝材との折り合いがつかなかった、そしてその本質が何かと言えば「光学設計を追求しなかったから」であり、そのバックボーンはたったの一つ「資金の問題」だけなのです(笑) このような因数分解が購入する前段階で確認できていれば、おそらく中には自分の好みとはまるで正反対の写りであることを、察知できた人が居たのかも知れないのです。そのヒントが光学系構成図であったことを今、ここでご紹介している次第です。
もっと言うなら、オールドレンズとは写真を記録するために用意されている道具なのだから、どうして皆さんはその心臓部であるべき光学設計や光学系構成図に、興味関心を抱かないのか、とても不思議でならないのです・・ (と言いつつ当方も12年かかりましたが)。スミマセンッ。
SCHOTT vs ソ連産で課題になる点 ― 設計で避けられない配慮 ―
この比較の焦点は「優劣」ではなく、同一設計を量産で成立させるために、設計者がどの品質項目を前提条件として扱うかです。屈折率均質性とストリーエは、レンズ内部で局所的な光路差 (OPD) を作り、像面で解像低下や不規則な像崩れを誘発します。したがって設計者は、材料側の均質性とストリーエ等級が厳しいほど、強い曲率設定や限界的な補正 (面の負担を局所に集中させる構成) を採りやすくなり、逆に材料ばらつきが前提条件に入るほど、曲率と厚み配分、貼り合わせ構成、周辺光線の折り方を破綻しにくい側へ寄せ、量産時の個体差に対する敏感な要素を均す方向の調整を求められます。
簡単に言うなら、硝材の品質が高く均質であれば、強い曲率や薄肉化、限界的な貼り合わせ条件を用いても設計通りの性能を再現しやすくなりますが、硝材のバラツキが大きい場合には、同じ条件を用いると個体ごとに結像差が顕在化しやすくなるため、各レンズ面の曲率を緩める、厚みの余裕を持たせる、貼り合わせ面での屈折力分担を分散させるなど、硝材の不均質が結像性能に直接現れにくい構成を採る必要が生じる、という道理を今、ここで語っているのです。
その結果、結像面では、前者は軸上から周辺にかけて解像の立ち上がり方を揃えやすく、細部のコントラストや像の引き締まり感を明確に制御しやすいのに対し、後者では解像力そのものよりも、像の安定性のほうが優先されてしまい、微細構造のコントラストが緩やかになり、画面内での描写が均質方向へ収束する傾向として「必ず」現れてきます。これはまさに物理的側面の話なので、光学設計でごまかしようがない世界の話をしていますし、それこそ蒸着コーティング層でどうにか改善方向に仕向けられる話でも全くありません。
つまり当方が指摘したいのは、今回のモデル「ZKシリーズ」と後の「Jupiter-3シリーズ」を比較した時、ほぼ近似した光学設計を採用しているにもかかわらず、顕著な描写特性の違いが現れている最大の要素が、そこにあるのではないかと気づいたのです・・。
ZKという符号に残った違和感 ― そしてゾナーという誇りの行方 ―
実は当方が一番最初に違和感を覚えた根本には、ネット上で広く流布している「ZK は Zonnar Krasnogorskii の略である」とする説明そのものにありました。ZK という二文字が、意味を持つ語の頭文字として当然のように扱われている点に、強い引っ掛かりを覚えたのです。そしてその違和感の前提には、最初から一貫して「Sonnar は 1932 年に戦前ドイツで命名・発売された製品名であり、そのようなドイツの製品銘をソ連側が名称として受け入れる必然性は存在しないはずだ」という認識です。
Зоркий (Zorki)、Юпитер (Jupiter)、Индустар (Industar)・・いずれもキリル文字の基形が確実に存在し、その後に対応するラテン語転写が成立しています。ところが Sonnar だけはキリル文字のЗоннарが存在せず、この順序が成立していません。キリル文字の基形が存在しないにもかかわらず、ラテン語側としてZonnarとの説明が与えられていると言う、この非対称性にこそが、実は当方の違和感の思考の起点だったのです。
実際、基形であるべき Зоннар を検索しても一つもヒットしません。従って、ラテン語転写という操作の前提条件そのものが満たされていないと判断せざるを得ません。ここで言う転写とは、ある言語の語を、発音や綴の対応関係を保ったまま、別の文字体系へ一文字単位で写し替える操作を指します。その前提に立つ限り、基となるキリル文字表記が存在しない Zonnar という説明は、この時点で既に成立条件を失っているように思えました。なお、ここで用いる「基形」とは、言語学・文献学・史料批判に於いて用いられる専門用語であり、派生・転写・翻訳・意訳が行われる以前に、一次資料として実際に書かれ使用された出発点となる語形を指します。
次に1948年という一点に立ち戻ると、現地のロシア人にとって「K」が勤務場所であるKMZ工場を指す「Красногорский」の頭文字であることは、ほとんど反射的に理解できたはずです (説明は不要)。一方で「Z」だけが取り残され、しかもそれはロシア語の音韻体系や語形成の規則に照らしても、語として自然に読まれたり発音されたりする必然的な根拠を持たない文字でした (ここに着目する人が一人も居ません)。
具体的には同じ Sonnar という語であっても、ドイツ人にとっては「ゾナー」と発音される一方、ロシア語話者の音韻体系では「ソナル」に近い発音として受け取られるため、この「Z」はロシア語話者側の自然な発音運用からは浮いた存在になります。しかも Sonnar の発音は、例えばラテン語でも「ソナル」、英語でも「ソナー」となり、いずれも語頭が「ゾ」で始まっていません。
さらに重要なのは、ZK を最も素直に展開したはずの「Зоркий Красногорский (Zorki Krasnogorskii)」というキリル文字の語形自体も、当時の一次資料には存在しないという点です。Zonnar が存在しないのであれば、次に誰もが思いつくはずのこの組み合わせすら成立していない事実は、ZK が語の省略や翻訳ではなく、発音主体のラテン語転写を前提としながらも、表に出すべきモデル銘とはされなかった「符号的用語」であった可能性を強く示唆しています。
ここで当方が強く想起したのが、Mike Johnston が1997年に写真雑誌上で提示した「bokeh」という綴の成立過程です。日本語の「ボケ」は本来 boke と転写され得る語であり、英語話者にとっては「ボーク」と誤って発音されてしまう環境にありました。そこで意識的に h を付随させ、「ボケ」と発音させるための綴として bokeh が提示されました。この試みは、単なる発音矯正に留まらず、日本語に於ける「ボケ」という語が持つ文化的背景――芸能に於けるボケとツッコミ、さらには行間や余白を読む思想、いわゆる侘び寂びに通じる感覚――を、写真表現の文脈へ正しく接続しようとする志向を含んでいました。音だけでなく文化を伴って語を扱おうとする姿勢という点で、この事例は ZK を巡る状況と極めて近い構造を持っています。
・・その彼の大変貴重な記事は「Photo Techniqueの雑誌記事」の中で読めます。
Sonnar は戦前にドイツ語で命名された製品名であり、ロシア語の語彙体系には元来存在しません。そのため、侵略国であったドイツの製品名を、ソ連圏内でロシア語として意味付け直す必然も義務も存在し得なかったはずです。にもかかわらず、世界的には既に Sonnar が「ゾナー」という発音で通用していたという事情がありました。このような国際的に共有された発音こそが、ロシア側に於いても無視できない外的条件として作用し、結果として「Zonnar」という発音主体のラテン語転写的説明が後年に生じた可能性は否定できません。しかしそれは正式なモデル名として採用されるべきものではなく、あくまで内部的、補助的な説明に留まる性格のものだったのではないかと、当方は推測しました。
そのため、当時の資料上に残ったのは ZK という符号のみであり、量産体制が確定した段階では、ロシア語として明確に意味を持つ Jupiter-3 へと改称されたと捉えるほうが、全体の経緯としては遥かに整合的です。
それでもなお Zonnar Krasnogorskii という説明がネット上で拡散し続ける現状には、当方的にはそういう裏に隠されているソ連側の背景説明があまりにも無いままに、そのラテン語転写だけが拡散しているという事実に、釘を刺したい思いで調べてみた次第です。単なるモデル名の綴との整合性を求めた思考に、こだわりすぎではないかと受け取られるかも知れませんが、どうあがいても実際に該当するЗоннарが当時の資料に一つも出現せず (他モデル名はいくらでも発掘できる) そのラテン語転写だけが我が物顔で今もネット上でZonnarと指摘されるのには、違和感しか残りませんね・・。
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次にここからはドイツ敗戦時の旧ソ連が接収したCarl Zeiss Jena工場からの機械設備や機材に資料 (原材料) などの真相を辿ってみたいと思います。
KMZの成立と役割 ― 写真機と軍需光学の中核 ―
KMZ (正式名称:Красногорский механический завод / Krasnogorsky Mechanical Plant / クラスノゴルスク機械工場)は、1942年にモスクワ州クラスノゴルスクで設立された国家系機械製造拠点です。第二次世界大戦期に於ける光学・精密機器需要への対応を目的とし、戦後は写真機 (Zenit/ゼニット)、交換レンズ、測量機器、軍用光学機器などを一体的に製造しました。民生用と軍需用が同一工場内で並行して生産される点は、旧ソ連の工業体制では一般的でした。設立は、1942年2月1日付で発出されたソ連兵器人民委員部 (НКВ) の приказ(命令) に基づくものです。ここで言うНКВ(NKV)とは、Народный commissariat вооружения の略称で、日本語では「ソ連人民武装委員部 (兵器人民委員部)」と訳されます。NKVは1939年に設置された、ソ連に於ける兵器・軍需工業を統括する国家機関であり、戦前から大祖国戦争期にかけて、工場番号制 (завод №◯◯◯) によって管理される軍需・光学・精密工業工場を所管していました。この命令により、KMZは既存工場の敷地を用いて「工場番号 393 (завод №393)」として編成されています。その敷地は、1941年10月にノヴォシビルスクへ疎開した精密機械系工場が使用していた設備を転用したもので、戦時期に於ける工場疎開と再編の流れの中で成立しています。創設当初に担った分野は、双眼鏡や照準器などの光学機器に加え、偵察・航空写真用途の機材(航空写真装備)の開発と製造でした。
※CIAリポートより抜粋
◉ завод (zavod / ザヴォード)
国家が直接管理する基幹工業生産単位を指す正式用語であり、日本語訳で「工場」を指す
KMZロゴ刻印の年代確定 ― 市場流通個体の銘板調査結果 ―
1948年に民生向けレンジファインダーカメラが製品として成立し市場に登場したタイミングで、標準装備として組み合わされる民生向け交換レンズ群もまた同時に用意され、生産と市場流通が開始されました。民生向け写真用レンズが市場流通を開始した1948年以降のKMZ製レンズについて、オークション市場 (ebay) に出品された実個体の銘板写真を多数確認した結果、ロゴ刻印の使用年は以下のように整理できました。
↑上にまとめたのはKMZの工場を表すロゴの変遷です。実はネット上では「ZENIT CAMERA」というサイトで用意されているのですが、このサイトはZENITの公式サイトではありません。従ってそのロゴの変遷を辿ってみると根拠が乏しかった為、上に挙げた内容は「現時点で海外オークションebayに確認できる228本の市場流通品のレンズ銘板を確認して、調査した結果」の掲示ですから、必然的に前述サイトの掲出とは年代表記が異なりますこと、ご留意下さいませ。もちろんこの掲示が正しい、或いは適正だとの根拠にもなっていません。つまり単なる市場調査結果に過ぎないと言う位置づけです。なおこれら調査は、市場流通品個体の製造番号先頭2桁が製造年度を表しているとの前提に立った調査結果であり、且つレンズ銘板の刻印ロゴと、年代別の集約に混在や混乱は一つも確認できていないことを唯一の根拠に当てて、上のように仕上げています (調査にはKMZ製を示すロゴの刻印が確認できるIndustar-50を使い調べています)。
順番に見ていくと、1948年の個体では台形プリズムのみの刻印ロゴが確認でき、且つまさに今回扱った個体もこのパターンでレンズ銘板に刻印が確認できました。
1949年になると、この台形プリズムの下に「ЗОРКИЙ」文字刻印を伴いますが、僅か1年足らずでその表記は変わります。1950年以降は、右向き矢印を伴うプリズム刻印が採用されます。
この矢印付き刻印は長期間使用されますが、1977年以降の個体では矢印が省略された形態へと変化します。さらに、台形プリズムに「ZENIT」の文字が付随する刻印は、1996年から2003年までの期間に限定して確認できました。
以上は登録年や制度史ではなく、実際に市場流通した量産品個体の銘板に基づく整理であり、KMZロゴ使用史の実態を示す根拠として位置付けられますが、あくまでも市場流通品を基に調査した結果ですので、断定要素ではありません (ご留意下さい)。
なお後に1956年から、Jupiter-3の生産はKMZ (Zavod:393) からZOMZ (Zavod:355) と言う光学機械工場「Загорский оптико-механический завод / Zagorskiy optiko-mekhanicheskiy zavod / ザゴルスク光学機械工場」に完全移管しています。㊧ロゴはその際に使用されていた工場を示すロゴで、1961年までレンズ銘板に刻印されていました (ロゴの趣旨は3枚貼り合わせレンズを表している)。
この根拠は中央より命令された軍用光学製品の増産へのシフトであり、KMZ工場側の当時の機械設備更新 (1951年〜1955年) が確認できていない為、既存機械設備のままで軍用光学製品への対応を迫られた結果、ZOMZに生産移管したとの推定が適います。㊧ロゴは1962年から使用されていた工場を示すロゴで、ZOMZの工場の性格自体が、医療用光学製品への主体的関わりへと変異したと言う根拠が調べられます。レンズ銘板への刻印も同じタイミングで変更されているようです (ロゴの主旨は目を表します)。但し、この推定はあくまでも一次資料が発見できなかった結果の推論です。軍用光学製品への比重増大は、当時の中央からの命令書の存在として裏付けがありますが、他の民生向けモデルがその後もKMZで生産を続けていたことから、単に軍用光学製品への増産命令を根拠に据えるのは課題が残ったままです (何故なら、Jupiter-9はM39マウント規格のままKMZでの生産が継続されたから)。この点については今後の探索が必要です。
KMZの製品展開 ― 民生と軍需の並行生産 ―
KMZはレンジファインダーカメラのZenit (ゼニット) シリーズ (35mm判一眼レフ用M39スクリューマウント規格、後にM42スクリューマウント規格へ移行) を通じて民生市場で広く知られますが、同時に照準器・観測用光学系・軍需向け精密機器も継続的に製造していました。これは特定工場が単一用途に限定されるのではなく、国家計画に基づき複数用途を担うという旧ソ連型生産構造に沿ったものです。Zenitブランドのカメラは1952年からKMZで製造され、初期機種は1953年に量産段階へ移行しています。戦後のKMZは、軍需 (照準・観測・偵察・航空写真)と写真機・写真光学 (民生・輸出) を、同一企業の製品群として並立させる形で運営されていました。輸出向けの写真機は、ソ連の対外貿易系統を通じて各国市場に供給されています。
KMZの規模 ― 従業員数の変遷 ―
KMZについて、年度を特定した公式な従業員数統計は旧ソ連にて一切公表されていません。現時点で把握できるのは、戦後の量産期に於いて数千人規模の労働力を前提とした大規模工場として運用されていた、という水準認識に留まります。旧ソ連の同種機械・光学工場の一般的な規模を踏まえると、1950年代から1960年代にかけては数千人規模、最盛期には1万人前後に達した可能性がある、という幅を持った把握が現実的です。1990年代以降は体制転換の影響 (旧ソ連体制の崩壊) により、従業員規模が大幅に縮小化しました。
旧ソ連の工場分類 ― 産業部門別の配置 ―
旧ソ連では工場は産業部門別に分類されました。機械工業省、光学機械工業省、防衛産業関連省庁など、中央省庁ごとに所管工場が割り当てられ、KMZは光学・精密機械分野の枠内に置かれていました。工場自体は国家所有で、独立した企業判断主体ではありません。戦時から戦後初期にかけ、企業は「人民委員部 (Народный) 工場番号 (завод №…)」という体系で編成される場合が多く、KMZも兵器人民委員部 (НКВ) の管轄下で「工場番号393」として発足しています。このため「NKV第393工場」という表記は、NKV配下に属する工場番号393、すなわちクラスノゴルスク機械工場 (KMZ) を指す公式な呼称として当時実際に用いられていました。同じ光学分野でも、国防用途と結び付く製品群は国家優先品目として扱われ、工場の役割もその前提に基づいて割り当てられました。つまり資本主義社会に於ける一般的な工場の性格や位置づけを前提に捉えると、旧ソ連時代の、或いは現在に於いてまで本質部分は見えてこないと指摘できるのです。
ZK と Jupiter-3 の成立背景 ― 名称変遷と戦後賠償下の生産基盤 ―
ZK 5cm f/1.5 は、当初 ZK (Zonnar Krasnogorsky) の名称で発売されました。これは、クラスノゴルスク (Krasnogorsk) の Zavod 393 に於いて製造されたゾナー型レンズであることを示す実務的便宜上の呼称です。その後名称は Jupiter-3 に変更されます。Jupiter (ジュピター) は太陽系の惑星名であり、古代ローマ神話の主神ユピテルに由来します。ローマ人は古代ギリシャ神話のゼウスを Jupiter と呼んでおり、Zeiss (ツァイス) という社名がロシア語圏で「ジース」と歪めて発音されたことが「ゼウス」→「Jupiter」という神話的名称連想に結び付いた可能性があるという説が存在します。
このレンズが成立した生産基盤は、第二次世界大戦後の戦後賠償措置と密接に関係しています。CIA 情報報告書 (Information Report、1953年8月25日作成、UNEVALUATED information)は、対象地域を USSR (モスクワ州) および Germany (ソ連占領地区) とし、Krasnogorsk の Zavod 393 と Jena の Carl Zeiss Jena工場に於ける光学機械・設備の数量と種類を主題として記録しています。同報告書によれば、1946年から1952年まで Zavod 393 で使用された光学ガラスはすべて、Carl Zeiss Jena 工場の解体に伴い、Jena から Zavod 393 へ移送されたものでした。この期間、光学ガラスの不足は認められず、品質は良好であったとされています。すなわち、材料供給源は Carl Zeiss Jena に完全に依存していたことが明記されています。
機械設備についても同様です。Zavod 393 に存在したレンズ研削盤およびレンズ研磨機はすべて 敗戦時のCarl Zeiss Jena 工場から移設された機械でした。さらに、Zavod 393 に設置されていたレンズ製造用機械および金属部品製造用機械の総数は、1946年時点のCarl Zeiss Jena 工場全体の機械群の「約3分の1に相当」していました。ここでの比較基準は一貫して CarlZeiss Jena 側に置かれており、Zavod 393 (KMZ) 側設備に占める比率については言及されていません。つまりネット上で語られている「KMZの設備の3分の1を占める」との記述は、そもそもその要素の内容が国家機密に属するため、その根拠が示されていません (CIAリポートではCarl Zess Jena工場の3分の1と記述され報告されている)。
報告書はまた、1946年解体前の Carl Zeiss Jena 工場の機械構成を具体的数量で示しています。研削機は約100台で、多軸スピンドル式が多く、1台あたり6~24スピンドルを備えていました。研磨アダプタ付き研削機、交換可能治具付き研削機が存在し、垂直型・水平型研削機が混在していました。大型研削機も約100台あり、旋盤は少なくとも200台(組立作業用約100台、精密旋盤約100台)に達していたとされています。加えて、フライス盤、ボール盤、大型・小型の金属加工機械一式が揃っており、Carl Zeiss Jena が高度に機械化された大規模光学工場であったことが示されています。
一方、Zavod 393 に於ける使用状況と不足についても記録されています。ソ連製機械も使用されていましたが、中小径のボーリングマシンや軽ボーリング機が不足しており、手工具 (ドリル、ハンドタップ等) も深刻に不足していました。その結果、生産効率は阻害されていたとされています。すなわち、中核加工は Zeiss 由来設備に依存していた一方で、周辺工具・補助設備は不足していたという状況です。
人員面では、Zavod 393 に約200名の少年と約100名の少女が見習工として在籍していました。一部は Krasnogorsk の徒弟学校に通学し、一部は工場内で実作業に従事していました。見習期間は 約2年間と推定されていますが、正確な期間は不明とされています。これは、戦後初期段階で技能者育成が生産と同時進行していたことを示しています。逆に、Carl Zeiss Jena 工場の戦後状況については、1947年以降、旧東ドイツ側 Carl Zeiss Jena はソ連の光学工場に生産機械を供給していないと記録されています。理由は自工場の再建および生産回復を優先したためであり、機械の移設が一時的な戦後賠償フェーズに限定されていたことを示しています (但し史実から捉えても戦後賠償は国家的扱いとしてその後も、全ては体制の下での管理が続けられた)。
生産裁量権の所在 ― 工場ではなく中央だけ ―
各工場に製品構成や生産数量を決定する裁量権はありません。生産計画、数量、優先順位は、Государственный плановый комитет СССР (Gosudarstvenny planovy komitet SSSR / State Planning Committee of the USSR / ソビエト連邦国家計画委員会 / 通称:ゴスプラン) が策定する国家計画に基づき、関係省庁を通じて工場へ指示されました。工場管理者の役割は、与えられた計画を期限内に達成することに限定されます。
計画の流れは、(A)ゴスプランが国家全体の計画を定め、(B)産業省庁が工場に対して生産課題 (品目・数量・納期)を割り当て、(C)原材料や部品は市場調達ではなく国家配給として供給される、という構造で運用されました。資材配給については、1960年代半ば以降、国家物資供給委員会ゴススナブ (Госснаб) が国家企業への割当を担っています。価格は市場で形成されるものではなく、国家の価格決定機関 (ゴスコムツェン:Госкомцен) が産業間取引価格を設定しました。軍需品では、国防省に属する軍事受領制度 (военприемка) により、工場に常駐する軍代表が受領と品質確認を行い、出荷を統制しました。
統制システムの必要性 ― 計画経済と軍需 ―
この集中管理システムは、資源配分の統一管理、軍需優先、重工業集中を目的として構築されました。市場競争や企業間裁量を前提としない体制下では、中央が需要と供給を一元的に調整する仕組みが不可欠とされたためです。民生用製品も、この枠組みの中で軍需と同列に配置されました。
この方式が採られた理由は、資材・設備・労働力を国家が一括で配分しなければ工場間で必要条件が揃わないこと、国防向け品目を最優先で確保する必要があったこと、さらに価格や取引条件を国家が定めなければ計画数値が成立しないという制度上の要請にあります。
その結果、KMZのように写真機を製造する企業であっても、戦時起源の所管体系と国防用途の製品群を併せ持つ以上、工場単位の自由裁量ではなく、国家計画・省庁指令・資材割当・軍事受領により生産内容が規定される位置付けとなりました。
機構維持思想の特殊性 ― 寒冷地・低精度環境を前提とした成立条件 ―
ソ連製オールドレンズに於いて特徴的なのは、光学設計そのものよりも「機構が確実に動き続けること」を最優先条件として成立している点です。これは描写性能や操作感よりも、極端な環境条件と製造ばらつきを包摂する機構維持思想が、製品設計の深部に組み込まれていたことを意味します。
まず前提として、ソ連は国土に極寒地域を広く含み、軍需・測量・観測用途では低温下での確実作動が必須条件でした。そのため、レンズ鏡筒やヘリコイドのみならず、本来は乾式で成立させることも可能な絞りユニット内部にまで潤滑剤を用いる設計が採られています。ここで重視されたのは操作感の均一性ではなく、低温・高湿・長期放置後でも金属部品が固着せず動くことでした (いわゆる金属凍結を防ぐ処置の一貫)。とりわけ象徴的なのが、絞り羽根にプレス成形された金属キー部です。この部位は低温下で金属同士が凝着しやすく、最悪の場合は動作不良や脱落を招きます。ソ連製レンズでは、こうしたリスクを回避するため、絞り機構全体を潤滑環境の中に置く設計が選ばれています。これは、西欧圏や当時の日本で一般的だった「乾式・精密前提の機構設計」とは明確に異なる発想です。
実際に確認されるグリースは、濃い黄褐色で、半固形に近い高粘性を持ちながらも潤滑性が高く、揮発せず長期残留する特性を示します。指で触れると粒状感を伴うものの、摺動時 (ヘリコイド駆動時のこと) には引っ掛かりを生まず、粗いネジ山や不均一な研削面に対しても動作を破綻させない挙動を示します。この性質は、加工精度の不足を潤滑層で吸収し、面圧変動や局所的な凝着を抑制する目的と整合します。このように、ソ連製オールドレンズの機構設計は・・・・、
▪高精度加工を前提としない
▪極端な環境条件を想定する
▪個体差を工程や材料で吸収する
という条件の下で成立しています。結果として、操作感や清潔さ、分解整備の容易さは二次的要素となり、機構が壊れず、固着せず、動き続けること自体が性能として位置付けられました。この機構維持思想は、光学設計とは独立した次元で、旧ソ連という体制・地理・工業条件が直接的に反映された設計文化の一端を示す具体例と言えます。
・・つまりロシアンレンズを語る時、この点を前提に据えなければ適切な認識が形成されないとも言い換えられるのです。
その意味で、何もかも西側諸国の「常識」の中で捉えようとすると、本質は決して見えてこない事を、解釈する側が意識的に認知しないと見誤ることを理解する必要があると当方は考えています。これは現在のロシアに拠るウクライナ侵攻に於いても全く同じ前提を該当できるワケで、その中にあって国際社会の言い分と整合しない道理は、実は現ロシアの体制そのモノの異質性に着目しない限り、そもそも同じ土俵で語っていないことになるのです。その意味で敢えて指摘するなら、資本主義社会と社会主義社会、ひいては全体主義社会を同等扱いして語る時点で、既に破綻していると受け取るべきですね。何故なら、意思決定権を握るのは、それら体制を制御する立場にある共産党だからですッ。この点を踏まえれば、どんなに商機を意識して現地に拠点を構築しようとも、体制の管理下にある中での話であり、賄賂は当然ながら(笑)、あくまでもニッチ的な商機を体現させているにすぎないことを理解すべきなのです。つまりどこぞの国に依存度を高めても、そこに「保証」と言うコトバは付随していないことを覚悟する必要があると考えますね。いつでも鶴の一声だけで、その経路は遮断されるのです。
アルミ合金材の選択 ― 延性優先という材料思想 ―
ロシアンレンズに於いて特徴的なのは、例えばCarl Zeiss Jena 製、Zeiss Opton 製、ZK、JUPITER-3 で共通して採られている絞り環の構造自体は同一であるにもかかわらず、ロシアンレンズ側のみが明確に「柔らかいアルミ合金材」を用いている点です。これは加工精度や仕上げの差では説明できず、材料そのものの性質差として捉えるほうが整合します。
実際に、JUPITER-3 を含む複数のロシアンレンズでは、絞り環単体を指で容易に塑性変形させ得るほど、降伏応力が低く延性の高い挙動が共通して確認されます。この傾向は特定個体に限られず、HELIOS、INDUSTAR、MIR 系列など複数モデルに跨って観察されます。この材料挙動は、旧西ドイツ製レンズで一般的に用いられていた、弾性域が広く剛性の高いアルミ合金とは明確に異なります。ロシアンレンズ側では、強度や剛性よりも、低温下で脆化せず、加工やプレス工程で割れにくく、ばらつきが出にくい延性重視の合金系 (つまり自然環境に対応できる金属特性のほうが重要視されていた) が選択されていたと考えるのが自然です。
このような合金選択は、低温環境での使用、熱処理管理の簡素化、材料供給の安定性といった条件と物理学面で整合しています。また、絞り環が構造部材ではなく操作入力用の部品である以上、変形しても致命的な機能喪失に直結しないという役割分離設計とも一致します。結果として、ロシアンレンズでは、潤滑設計・機構逃げ・材料延性という複数の要素を同時に用いることで、加工精度や環境条件の厳しさを製品側で吸収する成立条件が構築されています。この点は、単なる品質差ではなく、旧ソ連という体制下で形成された材料選択思想の具体的な表出として理解することができます。
そしてまさに、今回扱った個体でも、筐体外装の一部には、おそらくソ連産のアルミ合金材を研削して使っていると推定できる要素が、戦前ドイツの1941年製個体との比較で見いだせていますが、一方で逆の言い方で語るなら、今回扱った1948年製の個体の内部構成パーツには、一部にやはり接収したドイツ製の構成パーツがそのまま使われていることを、そのアルミ合金材の性質を確認することで推定できています。つまりこの1948年製のZKモデには、おそらくドイツから接収した完成品としてのアルミ合金材構成パーツがそのまま転用され、且つ不足していた構成パーツのみ1948年時点で当時のソ連のアルミ合金材を使って研削し用意したとの推定が結論づけられました。これはなかなかコトバだけでは根拠を示せませんが、実物の構成パーツを互いに比較し合うと明確なアルミ合金材の成分・配合の違い (つまり強度) の相違を確認できます。
◉ 延性 (えんせい)
弾性限度を超えて力を加えても、破壊せずに大きく塑性変形 (永久変形) する能力を指す
ZK 筐体外装の材質差 ― 1948年時点の置換と1954年以降の劣化 ―
CIAリポートでは、戦後のクラスノゴルスク工場(Zavod 393)に於いて、ドイツ人専門家が機械の再配置・設置と、生産方法の訓練に用いられたことが記載されています。また、工場敷地内の移動制限が課されていたため、製品生産の網羅的把握が困難だった旨も記載されています。さらに資材面では、部品生産に用いる原材料が全般に不足し、設計変更や代替材料の併記が常態化していたこと、金属は加工済材の供給が足りても、寸法・形状の入手性により量産開始時点で設計変更が要る場合があったこと、そして非鉄金属、とりわけ真鍮とアルミニウム合金の供給が危機的で、部品製造では金属節約が常時指示されていたことが明記されています。
後のオーバーホール工程内でもう一度説明しますが、1954年以降に登場した量産品Jupiter-3に使われていた、特に筐体外装のアルミ合金材について、その精錬品質が今まで調べてきた1941年製Sonnar 5cm f/1.5や1948年製ZK 5cm f/1.5と比較しても、明らかに品質が劣るアルミ合金材であったことを、当方自身が今までに扱ったJupiter-3の個体で確認できている点があります。
この事実に沿うと、1948年製ZKの内部構成パーツの主要部分はドイツからの接収パーツをそのまま使っていると推定できるものの、筐体外装は1948年製ZKモデルすら、既にソ連製アルミ合金材に差し替えられていたと推測できます。さらに、当方が実見した範囲で、1948年製ZKの筐体外装パーツは1954年以降のJupiter-3の筐体外装よりも数段品質が良かったため、1948年製ZKの筐体外装に使われていたアルミ合金材は当時のソ連で精錬されたアルミ合金材であり、且つ接収されたドイツ人技師の監督下で精錬・加工条件が管理された結果として、同じソ連製のアルミ合金材であっても、1954年以降の量産段階とは異なる品質差が出たという整理に至り、その背景事情としてCIAリポートに記載された資材不足・代替材運用・非鉄金属供給危機の状況が対応関係として読み取られるのです。
・・これが1948年製と1955年以降の構成パーツの品質差という根拠に該当します。
たかがオールドレンズの筐体外装に限定した話ですが、戦前ドイツでの精錬アルミ合金材 → 戦後ソ連での接収ドイツ人技師を活用した精錬でのアルミ合金材 → さらに後の量産体制確立時点でのソ連人技師による精錬アルミ合金材の体系・・という、バックボーンが明確に視えてきたのです!
つまりそこから視えてきたのは、接収したドイツ人技師達の本国旧東ドイツへの帰還が1950年代から始まっていたことに整合させると、1955年時点でアルミ合金材を精錬していた技師達は、実は接収されたドイツ人技師達に監督された、当時の見習い工員だった可能性が捨てきれないと言う話にも通ずるのではないでしょうか。もしもそのように受け取られるのであれば、それは戦前ドイツの工業技術の一端が、旧ソ連時代の戦後に於いて (否応なく) 伝承されたことにも繋がっていると考えられ、体制下と言う限定的な環境の中にあっても、2000年まで粛々と同じ設計のままに生産し続けてきた旧ソ連〜現ロシアの根拠を、垣間見たような気持ちになっています。そこには設計を改める必要性がそもそも前提として据えられておらず、古い時代の主旨だけを体現させる目的だけで長期間生産を続ける道理は、私達資本主義社会に於ける競争意識や差別化意識とは、まるで次元が異なる意識層が介在していると認識しない限り理解できず、裏を返して語るなら「新しい設計や技術で作られたのなら、その製品に切り替えてまた長い期間生産し続ければ良い」と言う、やはり再配分の本質だけに従う思想や哲学は、実は体制の名のもとに「中央が・・」との暗黙の縛りを、国民の意識層深くに生まれながら植え付ける、とても合理的なシステムのようにも当方には受け取られました。
つまり自分達が住まう世界は、外界とは違う点に違和感を覚えない意識管理が、確立できている恐ろしさとでも言えば、伝えられるでしょうか。それが実のところ現ロシアの高齢者世代で、今だに「(旧) ソ連時代が良かった」と語られている本質のように当方は今、とても強く感じています。それは決して体制と中央によるプロパガンダの成功物語ではなく、生まれながらに体制と中央に縛られている環境こそが、まさに空気の如く自身の生命力を保証する源のように守られる、人間の生への安心感と一致してしまっている思想制御であり、これを以て恐ろしさを超越して、人間の愚かさとともに崇高まで表裏一体のように捉えさせているのではないかと、当方には今感じられて仕方ないのです・・。
これは当方がYouTubeで視聴した番組の中に、日本に住まうとあるロシア人娘が、自分の母親をようやく日本に招いて、日本という別世界を母親に教えたにも関わらず、母親はやはり祖国ロシアが良いし安心できるのだと言い張って、娘の一緒に住みたいという気持ちには答えられないと結論した、その心境をまるで捉えているかのように、当方には受け取られたのです。それは確かに人生の黄昏時に差し掛かっている中での郷愁とも受け取られますが、はたして本当にそれだけなのでしょうか??? 当方的には、或る意味社会主義体制、或いは全体主義体制という体制の支配下に人間を置いてしまう概念とは、実はそういう人間の弱さ (誰かに守られている居心地の良さ) につけ込んだ非常にキワドイ思想と哲学なのではないかと、今認識を改めているところで御座います。その中にあって、自ら最前線に赴き死に急ぐ志願兵士達の存在も、実は国に身を捧げたとの生贄的な概念よりも「守られるとは、そういうことである」と言う本質を表しているのではないかと、当方は今危惧しているところで御座います。これを例えるなら、動物の集団が群れの中に位置することで守られていると錯覚ではなく、安心そのモノを享受している事実と似ているのではないかと、当方は考えました。それは或る意味コトバを替えるなら、逆に資本主義社会での厳しさであり、リアルな現実でもあると受け取られたのです。いったい何が「安心」なのかは、その解釈の角度の違いにあると、何だか今回の探索で思い知らされたような気持ちになっていますね。当方には前述の「動物の群れ」との比喩に、決して蔑んだ心持ちではなく、何処に「安心」を置くのかという究極の問いかけには、それはまさに動物の本能が大きく関わっているのではないかと受け取ったからに他なりません。なんだかんだ言っても、当方自身も家族を守りたい一心なのは、まさに自身の本能からでもあります。今回の探索で、予想に反して意外な側面を見つけてしまいましたが、なかなかに考えさせられる課題でもあります。
・・皆様には、どのように受け取られるでしょうかッ。
つまり単なる工業製品の一つでしかないオールドレンズの話なのかも知れませんが、そこには明確に旧ソ連時代から受け継ぐ体制と中央、そして国民 (人民) 意識との接合点が今だに機能し続けていると、ロシアンレンズからも読み取ることができるのではないかと、当方は今回の探索でより明確に理解できた次第です。
これが親指と人差指だけで掴んだままチカラを加えると「明確に変形して撓る」アルミ合金材を採用している量産体制下のJupiter-3の筐体外装の『真実』と指摘できるのではないでしょうか・・。
(但しこれは絞り環だけを指して表現しています/他の部位パーツは指だけでは撓りません)
そのようなオールドレンズの一部構成パーツの確認作業から、壮大な現ロシア国民の意識層にまで思いを巡らせてみました・・。
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以上が主にCIAリポートから主体的に抜粋してきた、特にオールドレンズに関係する内容に限定した説明部分です。この他にも様々な産業工業分野に於ける機械設備のリポートが報告されており、そのページ数は莫大です。しかしこれらの内容からでも特にオールドレンズに関する要素では、十分にドイツ敗戦時にCarl Zeiss Jenaから接収した機械設備や機材に資材までが活用されていた事実が伝わってきます。また巷で『都市伝説』化している接収硝材の内容が、原材料ではなく、堆積が完了していた使用可能な硝材であったことも確認でき、且つその使用期間まで明確にCIAリポートに掲出されていた点で、当方的には宝物に匹敵する重要文献であったことは間違いありません。
つまり1955年から量産化が本格化したJupiter-3に実装されている光学ガラスレンズも光学設計も、戦前ドイツが1932年に発売したSonnar 5cm f/1.5とは、既に全くの別モノに変遷していたことが明確になり、且つその描写性が明確に異なっている点まで実写確認できることから、この先の探索と研究課題は、その方面の特定作業に移行していく話になっていきます。
今回、ネット上で語られることが大変少ないCIAリポートに着目し、当時の旧ソ連での接収状況と具体的な活用状況を分野別にご紹介してみました。超長文に至り、大変申し訳ございません!
それではここから、いよいよ今回扱った「ЗК 1:1,5 F=5см П 19
48 N`0010xx」の描写性を探索していく作業に移っていきます。この描写の特徴を探る手段には、巷で最もポピュラーな実写に基づく同一前提、同一条件下での等倍鑑賞による厳密な検査ではなく、内部構造面と実際に流通していた量産品個体に実装する光学ガラスレンズから紐解く解析手法を採用します。何故ならそのような解析手法がネット上には確立されていない点に着目し、その信憑性の根拠としての客観的要素に「光学ガラスレンズの実測 (曲率と厚みに空間配置、及び放射線量)」とそこからトレースできる光学系構成図の併用に拠る「数学計算を参照した光学的光線光路のトレース」に基づく解析を当てていますから、なまじ当方の憶測範疇だけに留まらない、相応の信憑性が確保できる手法ではないかと捉えているからに他なりません。もちろんこの手法は「あくまでも推定範疇を超えられない」ことに立脚すべきは、そもそもそれらに関する一次資料の公開が無い時点で、それ以上でも以下にもならないとの認識であり、当然ながらそれは当方にも自覚として認知されており、その範疇での探索であること、ここに事前に告知させて頂く次第です。
従って当方のこのような手法が『異端的』だからとの主旨だけで、批判や抗議に誹謗中傷メールを送信してくることは、ご遠慮下さいませ。
戦前ドイツの反射防止技術の位置付け ― 特許制度と工業通念との整合 ―
前のほうの段落でも少し語りましたが、戦前ドイツではドイツ帝国成立 (1871年) 以降に確立された特許制度を基盤として、工業技術は工程ではなく、工業技術革新の成果として達成された性能状態を基準に管理・評価されていました。ドイツ工業界では、技術とは「何をしたか」ではなく、「どの水準の性能が成立したか」によって社会的・工業的価値を与えられる対象であり、この思想が工業通念として共有されていました。
光学分野でも同様に、反射低減は処理方法ではなく、透過性能という到達点をもって定義されます (前の段落のほうで語ってきた、旧ソ連の捉え方との決定的な差です)。
←『DE685767C (1935-11-01)』ドイツ特許省宛て出願
Carl Zeiss FA在籍時のAlexander Smakula博士による発明
戦前ドイツ特許省で一番最初に掲出された単層膜蒸着コーティング層に関する発明案件であり、画期的な内容です。
これは1904年に英国で発出されたHarold Dennis Taylor (ハロルド・デニス・テイラー) による発明案件に、光学ガラスレンズ表層面を化学処理で劣化させて反射を防ぐ手法を、既知の発明として挙げて主張しているAlexander Smakula (アレキサンダー・スマクラ) 氏の発明です。
要はテイラーの発明案件のように、光学ガラスレンズ面を着想の原点としている限り、どのような処置を経てもその醸成には安定化が狙えない (何故なら硝材そのモノが堆積物だから) との着目から、資料を蒸着させて光学ガラスレンズを薄膜で覆うことで反射防止にあてるという革新的な着想に基づく発明案件であり、その際使う資料 (ここで言う資料とは、蒸着する際に使用する鉱物を指す) としてCaF2を挙げている点に合わせて、具体的手法として「真空引き蒸着」による処理を介在させるという用法まで明確にした、この2つの点に於いて従来の光学概念に囚われていない画期的な発明であったと指摘できるのです!
この結果、1939年以降、Zeiss製レンズの銘板には「T」が刻印されるようになります。この「T」はドイツ語 Transparenz (トランスパレンツ) に基づき、透過状態が達成されていることを示す性能表示として「頭文字」をあてて機能していました。
ソ連に於ける反射防止技術の表記と立脚点 ― 規格表示の正体とは ―
一方、旧ソ連では、排他的権利としての特許概念 (特定個人や企業が独占的に利用・市場化できる権利) を基礎とする発明管理体制は採用されませんでした。ソ連では発明は国家に帰属し、発明者個人には名義上の「発明者であること」が帰属するに留まり、利用権や配分は国家が保持しました。
1919年の発明者証制度導入以降、1920年代を通じて、発明の国家帰属という考え方は国家計画経済と一体化しながら制度化されていきます。個人の発明成果は国家に集約され、国家計画の中で再配分されるという仕組みは、1920年代後半から1930年代にかけて工業・科学技術分野全体に浸透していきました。
このため、技術の呼称や表示は、個別企業の商標運用ではなく、国家の規格文書 (GOST) や図面表記の体系の中で運用されました。
・・これらの内容については既に冒頭の段落のほうで、一部を解説済です。
GOST (ソ連の国家規格) の図面規格では、光学部品に施す特殊光学コーティングの分類の一つとして「Просветляющие покрытия (反射防止コーティング層)」が掲げられ、短縮形として「Просветl.」が与えられています。
レンズ銘板に於ける「П」は、この「Просветляющие покрытия」という名詞分類 (反射防止コーティング層) を前提にした技術的標識として理解するのが、規格体系との整合性が高いと整理できます。
層数 (単層膜=1層/複層膜=2層/多層膜=3層以上) については、少なくとも上記の GOST 図面規格の記述範囲では「Просветляющие покрытия」という分類名の提示に留まっており、単層膜か複層膜かを直接特定できる規定は確認されていません。
しかしレンズ銘板に刻印されている「П」は「покрытие (単数形)」や「покрытия (複数形)」といった特定の語形の頭文字を示しているわけではない、という点です。これらコトバは日本語訳すると「被覆 (複数) / 被膜群 / コーティング層 (複数)」と訳されますが、GOSTの図面規格に於いて用いられる「Просветляющие покрытия」はあくまで分類名であり、銘板刻印に於いては、その分類名に含まれる語根「просвет-」に基づき、反射防止コーティングが施された光学部品であることを示す簡略記号として「П」が用いられた、と整理するのが妥当である点・・つまり頭文字表記ではなく簡略記号としての扱いです。
この点に関して、ネット上某有名処の解釈と解説に比較した時、前述の内容はまるで異なります。そのサイトでは「покрытие (単数形)」の「頭文字」と説明していましたが、当方の受け取りは全く異なる解釈だからです。何故なら、別の表記がその解説に則っていないからです (そこで破綻してしまっていることに着目し、当方は別の尺度から再度調査しました)。それはつまり「頭文字」ではないとの解釈です。一般的通念として、複数の技術的種類の分類表記の中で、頭文字を採用を採用するかしないかという「混用」が起きる場合には、何かしらその根拠と理由を伴う必要があると当方は受け取りました。客観的な根拠と理由がないままに、そのような混用は通念から捉えるなら、むしろ存在しないと言う逆説的な捉え方です (だから当方は『異端者』と誹謗されます)。
実はその根拠として裏打ちする表記が別にあり、多層膜を示す刻印として用いられている「МС」です。この文字はラテン文字ではなくキリル文字による表記であり、そのままラテン文字転写すると「MS」になります。この表記は「многослойное просветление (多層反射防止)」に由来するGOSTに於ける技術表記であり「многослойное」は語の構成上「много- (多)」と「слой (層)」に分解できます。すなわち、М は「多」を意味する語根に、С は「層」を意味する語根に対応しており、ここでも単純な頭文字略語ではなく、語根を抽出した技術的略号として銘板刻印が構成されていると理解するのが、ソ連に於ける規格体系および実物表記との整合性として理解されるのです (但し、これはあくまでも当方に限定した解釈です)。
何故なら、もしも一般的に指摘されている「頭文字表記」とするなら、前述の多層膜蒸着コーティング層を表す表記は、頭文字を採って「MП」と表記されるべきで、辻褄が合わないことになります。従ってここでも頭文字表記ではなく「語根由来の簡略表記」と受け取るのがGOSTの図面規格に基づく整合性として整理できるとの判定になったのです。このような根拠は、ロシア語とその文字表記であるキリル文字の体系に根拠を得た内容であり、前述サイトの根拠とは全く異なっている点、どうぞご留意下さいませ (何故なら、固定的な解釈以前に、そもそも言語だから!)。
ソ連に於ける計量制度と規格意識 ― レンズ銘板表記の理解 / 制度的前提 ―
ロシアおよびソ連に単位概念が存在しなかったワケではありません。帝政ロシアは1899年にメートル法が法制度として導入され、その後ソ連政権は1918年の布告により国際メートル法を義務化しました。さらに1925年には国際メートル条約 (Metre Convention) を承認し、同年に国家標準化機関が設置され、OSTを経てGOST (冒頭解説の通りソ連の規格) へと至る規格体系が制度化されています。このとおり、ソ連ではメートル法を準拠し、その国際条約にまで加盟しています。それにもかかわらず単位以外の「規格概念」が、そもそも国際通念上整合し得なかった根拠が、当時のソ連には顕在していた事実を研究しようと試みないので、未だに日本国内での認識に齟齬が重なったまま拡散が続いているのです。
この制度的背景を踏まえると、ZK系レンズ銘板に見られる「ЗК 1:1,5 F=5см П 19
48 N`0010xx」という表記は、計量単位 (см) と物理量記号 (F)、番号標識 (N) が併用される技術表記慣行の反映として、国際通念に準拠していると理解されます。
反射防止技術の発明着想を遡る ― 1904年テイラーの化学処理発明 ―
冒頭のほうで既に説明したとおり、反射防止という光学的課題を発明着想の水準まで遡ると、1904年に到達します。この年ハロルド・デニス・テイラー (Harold Dennis Taylor) は、光学ガラス表層面を酸浴で化学処理することにより反射を低減する発明を提示しました。
この着想は、光学ガラス表面、化学的処理、反射低減という要素を含み、後年の反射防止技術の出発点となりました。
ドイツとソ連での着想の受け取り方の差 ― 技術革新基準と用語分類基準 ―
ドイツ側では、この着想を起点に、化学処理が光学ガラスの材質や表層構造に強く依存するという制約を認識し、薄膜形成による反射制御へと発展させました。1935年のSmakulaによる特許出願と、1939年の「T」刻印はその制度的帰結であり前述したとおりです。
一方ソ連側では、反射低減という課題を、特定の処理工程の実施有無としてではなく、光学部品に付与される被膜の分類概念として受け取りました。テイラーの化学処理は、歴史的な発明着想として参照されましたが、評価や表記の基準は処理行為そのものではなく、GOST 図面規格で定義された被膜分類に属するかどうか、という点に置かれていました。実はこの点が、レンズ銘板に刻印される「T」と「П」の相違を理解する上での本質的な差異となりますが、現時点の日本国内のネット上では、この規格体系に基づいて整理された解説はほとんど確認できません。
単層膜反射防止の出発点 ― スマクラが示した位相で反射を消す発想 ―
前のほうで特許出願申請書を掲示して説明したとおり、戦前ドイツにて、1935年にAlexander Smakula (アレクサンダー・スマクラ) によって、光学ガラス表面に薄膜を蒸着することで反射を低減する方法を示しました。この単層膜反射防止は、材料を一層だけ用いながら、反射光同士を干渉させるという極めて物理原理に忠実な発想に基づいています。
光がガラス表面に到達すると、反射は一箇所で起きるわけではありません。単層膜が存在する場合、反射は「空気と膜の境界、膜とガラスの境界」の二箇所で生じます。この二つの反射光は、進んだ距離が異なるため、位相差 (波の山と谷のずれ) が生まれます。この位相差をちょうど180° (波長の半分) に設定すると、二つの反射光は互いに逆位相となり、結果として反射が弱まります (つまり互いに打ち消しあって一部が相殺する)。すると残りの透過光はどうなるのかが次の話です。
単層膜で180°位相差を成立させる条件 ― 膜厚と屈折率だけで成立 ―
単層膜で180°位相干渉を成立させるために必要なのは、膜厚と屈折率の組み合わせだけです。
具体的には、膜の光学的厚さ (屈折率 x 物理的厚さ) が、対象波長の 1/4波長 (λ/4 と表示する膜厚条件) になるよう設定されます。この1/4波長の膜厚 (光が膜内部を往復すると1/2波長分進む状態) によって、膜下面で反射した光は、膜上面で反射した光と180°ズレた位相で戻ってきます。
これは、単層膜では「干渉に関与する反射は常に二つだけ、位相条件は一つしか設定できない」という物理原理です。
つまり単層膜とは、特定の波長に於いてのみ最適化された反射干渉構造であり、その成立条件は非常に単純である一方、調整の自由度は存在しないと言う制約に囚われます。
ソ連に於ける単層膜とは ― マルツェフが重視した “再現できる位相条件” ―
←『SU121232A1 (1958-04-28)』ソ連国家発明発見委員会宛て
出願、Viktor Maltsev (ヴィクトル・マルツェフ) 中心に発明され、
単層膜技術が体系的に導入されました。但し発明は個人の権利とし
て認められない為、国家に吸い上げられてしまいます。
この単層膜の発明は、スマクラの原理と同一の位相干渉構造を持ちますが、実は運用思想には明確な特徴がありました。それは、膜厚と材料を限定することで、同じ位相条件を常に再現できることを最優先した点でした。
単層膜は、膜厚が少しでもずれると位相条件が崩れます。そのためソ連では、複雑な設計を行うよりも「単一材料を使い、単一工程だけで、測定条件と整合する膜厚」という構成が選ばれました。結果として、ソ連での単層膜は「光学性能の追求」ではなく「規格内で成立する光学状態を量産上でも維持できる」ことが最優先として扱われました。
つまりこれが意味するのは、光学性能面での追求よりも、大量生産ライン上での歩留まりの問題を最優先に設定されていた発明概念に立脚しており、この点に於いて戦前ドイツのスマクラの発明の前提条件とは、まるで異なる概念が出発点だったことが理解できます。或る意味国家体制の中での発明という縛られ方が大きく影響した結果だったと理解できるのです。
複層膜の登場 ― 西野久によるλ/4層とλ/2層を用いた位相制御 ―
次の時代に登場する複層膜では、単層膜とは異なる位相制御の考え方が採られます。小西六写真工業在籍時の西野 久氏による複層膜の発明では、膜を複数層に分け、それぞれに異なる光学的役割を与えています。
複層膜に於いて重要なのは、反射防止膜が制御対象としているのが、硝材内部で生じる吸収や散乱・乱反射ではなく、あくまで各界面で発生する一次反射の位相関係のみである点です。実際に光学系内では、確かに硝材内部で起きる光の吸収や散乱、乱反射の相殺は結果として光量を減じる方向に働く場合があるものの、それ自体は設計によって位相制御されている現象ではありません (この点の理解がなかなか拡散しません)。
複層膜では、基本単位として λ/4膜厚の層 (位相を90°進める層) と、λ/2膜厚に相当する効果を持つ層 (位相を180°進める層) 構成が互いに組み合わされます。λ/4層は、反射光が基準点に到達した際の波長サイクル位置を1/4周期分ズラす役割を担い、一方のλ/2相当層はその波長サイクルを半周期分反転させることで、打ち消しと強め合いの条件を意図的に振り分ける役割を持ちます。つまり互いの相乗効果の中で作用し合っている関係が成立します。但し、λ/4やλ/2はあくまで代表的な設計単位であり、実際の設計では最終的に空気側へ戻る反射ベクトル総和が最小となる条件から各層の光学膜厚が決定されます。
この結果、表面では全面反射しているように見える場合であっても、その反射光量は実際には極めて僅かです。位相干渉により相殺された反射成分は消滅するのではなく「エネルギー保存の法則」に従い位相方向を変えて透過側へと配分されます。蒸着コーティング層の膜厚が厳密に制御されていることで、このエネルギー配分は安定して成立し「結果として透過率の向上という光学的原理」が完成するのです (例:1958年時点で約97%の透過率が示されている)。
これにより、各層界面で生じる反射光は、単一の180°条件に集約されるのではなく、層ごとに異なる位相状態を経由しながらも互いに重ね合わされます。最終的に観測される反射低減は、λ/4層とλ/2相当層が作る複数の干渉条件の合成結果という話になります。
この構成に於いては、反射は二箇所ではなく、多層界面すべてで発生します。それぞれの反射光は、設計された膜厚に応じた位相を持ち、結果として広い波長域に渡る反射低減が成立します。
・・だからこそ反射させることで、むしろ透過率が向上するという物理原理が働くのです。
◉ 180°位相干渉 (反射に於ける位相)
180°位相干渉とは、同一の基準点/同一の瞬間に重なった二つ以上の波動 (光波) が、波長サイクルに於いて半周期 (λ/2) だけズレ、振動の符号 (正負) が正反対になっている状態で重ね合わされる干渉を指す
※その結果、透過側では透過率が向上する (同時発生で起きる物理原理)
◉ λ (らむだ)
光は波動なので波長を表す記号 (正/+ → 負/− → 正/+)と戻るまでが1周期)
位相 (phase) ― 位相差の基礎的な説明 ―
位相とは、波動の1周期を 360° と見なしたとき、その周期の中で「今どの位置にあるか」を示す量です。ここでいう 360° は空間的な角度ではなく、周期を円周に見立てて位置を表すための表現です。
また「位相差」とは、同じ空間位置・同じ瞬間に観測した二つの波が、その1周期の中でどれだけズレているか(どれだけ位置が違うか)を示す量です。例えば一方が山 (0°の位置) にあるとき、もう一方が谷 (180°の位置) にあれば、位相差は 180° になります。位相や位相差を式で表す際、慣例としてギリシャ文字の φ (ファイ) を用います。これは位相を表すための記号であり、単位ではありません。位相の単位は度 (°) またはラジアン (rad) です。また、位相差を Δφ と書く場合の Δ (デルタ) は「差」を示す記号であり、物理量や単位そのものではありません。従って Δφ は「位相の差」という意味になります。
光は電磁波であり、電場と磁場が一組になって進む波です。電場と磁場は互いに直交しますが、時間変化は同じタイミングで起こります。つまり電場が最大のとき磁場も最大になり、ゼロのときも同時にゼロになります。ここで扱う 90° や 180° の位相差は、電場と磁場の間のズレを示しているのではありません。従ってこの後に登場する模式図で描いている正弦波は、電磁波のうち電場の振幅を代表して描いたものであり、異なる経路を通った二つの光波の電場振幅同士のズレをイメージして示している模式図なのです。
光は電磁波であり、空間中を進む際に電場と磁場が周期的に振動しています。ある瞬間にその波を空間上で見ると、山と谷が連続して並んでいます。この「山から次の山までの距離」が波長 λ です。したがって空間で λ だけ進むことは、振動がちょうど1周期分進むことと同じ意味になります。振動の1周期は角度で 360° (=2πラジアン) と表せます。従って、光が λ 進めば位相は 360° 進みます。もし進行距離に差が生じれば、その差に比例して位相差が生じます。この関係は、位相差 Δφ は光路長差 ΔL に比例し、Δφ = (2π/λ) × ΔL と表されます。例えば光路長差が λ/2 であれば位相差は 180°、λ/4 であれば 90° になります。ここで示している 90° や 180° は空間的な角度ではなく、波動の周期に対する位置を角度で表現したものです。
単層膜/複層膜の差異 ― 一条件で完結させるか、層の構造で分解するか ―
単層膜と複層膜の差は、性能の高低ではありません。位相干渉の成立のさせ方そのものが異なります。単層膜では、λ/4膜厚によって生じる180°位相干渉という一条件に全てを集約します。反射光は二つに限定され、位相関係も一通りしか存在しません。
一方、複層膜では、λ/4層 (90°) とλ/2相当層 (180°) を組み合わせることで、位相干渉を層構造として分解し、段階的に制御します。単層膜が180°位相差という一条件で干渉を完結させるのに対し、複層膜では各界面で生じる位相は0°〜360°の範囲内で連続的に設計され、必ずしも180°に固定されません。何故なら、設計の命題は「空気側へ戻る反射ベクトル総和を最小化すること」であり、そのために各層に於ける位相と振幅が同時に管理される設計構造になります。
この比較によって、単層膜は単純であるがゆえに成立条件が明確であり、複層膜は複雑であるがゆえに設計の自由度を獲得した技術であることが理解できるのです (但しそれは正入射に限った想定として今語っています)。
↑上の模式図では複層膜の場合の入射光 (法線に対して垂直の正入射としてのみ図式化しています) に対する各界面での反射挙動について模式図を用意しました。光学ガラスレンズ (BK7) に対して、第一層の資料が蒸着された後に、さらにその上に外気に直接晒される蒸着としてMgF2を重ねています (第二層のこと)。イメージ的に理解されることを最優先にした想定で語っているので、その点をご留意下さいませ (斜め入社の場合はまた前提条件が複雑になるからです)。
正入射の入射光は赤色矢印で透過を示していますが、その反射光をブルー色の矢印で明示させているものの、正入射の場合に限り、反射光は法線方向上で入射光と同軸になります。しかしそうすると、見にくくなって矢印の混乱が生ずるので、正入射を示す赤色矢印の右隣に「このような反射が起きている」ことを示す反射光としてブルー色の矢印を並べて表示しています。
そしてこの模式図に示した λ/4 および λ/2 の膜厚表記は、位相制御の代表的な構成例を示したものであり、実際の複層膜設計に於いては、目的波長域、及び屈折率配列に応じて光学膜厚は必ずしもこの比率に固定されるものではありません。従って各界面で生じる反射成分の位相差も、 90° や 180° に限定されず、例えば 40° や 122°、あるいは 210° など 0°〜360° の範囲内で、個別に設定された上で、その総和が最小となるように設計されるのが普通であり道理です。
↑上の図は、単層膜と複層膜の位相差干渉を示す模式図 (概念図) です。曲線が表すのは・・・・、
青色:基準波 sin (X) (蒸着コーティング層が存在しない時)
赤色:単層膜の180°位相 (僅かにズラしてオフセットしています)
緑色:複層膜の90°位相 sin(x + π/2)
橙色:複層膜の180°位相 (僅かにズラしてオフセットしています)
赤色と橙色は本来、この模式図では重なってしまうので、分かり辛いため、ワザとズラして表示しています。また青色の基準波は、光学ガラスレンズの表層面に蒸着コーティング層が蒸着されていない状態 (つまりノンコート時) の界面位相基準波です。
◉ 反射防止 (Anti-Reflection / AR)
入射光から生じる複数の反射光成分が、干渉によって外部 (露出方向/空気方向) に戻る反射エネルギーを減少させる現象
従って単層膜の場合、反射防止とは「空気 ― 膜界面」及び「膜 ― ガラス界面」で生じた複数の反射成分が、設計条件下で 180° 位相差になって、空気側 (露出方向) に戻る反射光同士が干渉によって相殺状態になる現象のことです (つまり単層膜では、設計波長および設計入射角に於いてのみ、位相差は 180° に集約されます)。その結果として反射光が低減し、相対的に透過光の透過率が向上することを狙った物理原理と説明できるのです。一方複層膜の場合は「空気 ― 最外層膜界面 (第二層)」「各膜層間界面」「最内層膜 (第一層) ― ガラス界面」で生じた多数の反射成分が、膜厚と屈折率配列の設計条件下で、それぞれの位相差が段階的に制御され、空気側 (露出方向) に戻る反射光の総和が干渉によって相殺方向となる現象のことです。その結果として、単層膜よりも広い波長域に於いて反射光の低減が成立し、相対的に透過光の透過率がより高い水準で維持されることを狙った物理原理と説明できるのです。だからこそひとつ前の模式図では反射光であるブルー色の矢印の長さは、反射光の光量をイメージ的に表しているものの、その量が少ない/微量であることをイメージして短く、小さく明示しているとの説明になっています。
例として或る光学ガラスレンズ (BK7) の両面にMgF2を資料として単層膜だけで蒸着コーティング層を被せた場合、もしもノンコートレンズであれば片面で4%ずつ反射によって透過光が失われるため (フレネルの公式)、その光学ガラスレンズの裏面から射出される光線は入射する前から92%に減じられてしまいます (厳密計算では91.9%の透過率)。ところが前述のような単層膜MgF2を使い両面に被せると、最終的な透過率は97.5%まで向上する計算値になります (理論値)。
この時、反射側と透過側で捉えた時、波動は (光は電磁波なので) 正負のサイクルで振幅するため、直感的には比例関係にあるかのように (特に上の模式図を眺めると) 見えますが、実際には蒸着コーティング層、及び光学ガラスレンズそれぞれに固有の屈折率が存在し、各界面で生じる反射係数が一致しません。そのため、位相は 180° 条件を満たしていても振幅が等しくならず、反射側と透過側との間に単純な比例関係は成立しないのです。結果、透過率が上がっていく原理になります。
つまりその反射係数を見越して180°位相干渉を設計することで、蒸着コーティング層の膜厚を正確にλ/4になるよう仕上げる結果、反射と同時に透過光の透過率向上が体現できる道理になるのです。従ってその時に光学ガラスレンズ自体の (硝材の) 屈折率よりも、蒸着コーティング層の使用資料の反射係数 (屈折率) が問題になってしまう道理は、可能な限り低い屈折率のほうが制御しやすいからで、且つそれが何を意味するのかと言えば、生産時点の光学ガラスレンズ表層面への定着性の良さと堅牢性との成立条件が影響してくる話になるとの関係性に成らざるを得ないのです。
◉ 位相 (phase )
位相とは、周期運動を行う波動に於いて、その1周期 (360°) の中のどの位置にあるかを示す量。
従って物理的には、正弦波で表すのであれば・・・・、
sin(ωt + φ)
・・・・の φ (ファイ) が位相です。ここで・・・・、
▪1周期 = 360° = 2πラジアン
▪180° = πラジアン = 半周期
▪90° = π/2ラジアン = 1/4周期
・・を意味しています。
結果、位相の角度は「具体的な空間での角度」を表すのではなく「波動の周期に対する位置を示す量」を角度で表現したものです。また位相差は光路長差 ΔL に比例し、Δφ = (2π/λ) × ΔL の関係で与えられます。
ここで用いている 90° や 180° という角度は、光の入射角や反射角といった空間的な具体的な角度ではありません。これは光波の周期運動に於ける位置を示す位相角を表しているにすぎません。
光は電磁波であり周期的に振動します。その1周期を 360° として表すことができます。
▪90° は 1周期の1/4 (λ/4)
▪180° は 1周期の1/2 (λ/2)
これを意味しているのです。
例えば 180° の位相差とは、同じ空間位置、同じ瞬間に観測した時、一方の波が正の最大振幅 (山) にある時、もう一方が負の最大振幅 (谷) にある状態を指します。このとき両者を重ね合わせると振幅が相殺されます。これが 180° 位相干渉による反射低減の原理の基礎です。
同様に 90° とは、波が 1/4周期分ズレている状態を意味し、これは単独では完全な相殺条件ではありませんが、複層膜設計に於いては、段階的な位相調整単位として用いられるのです。
従って λ/4膜厚・λ/2膜厚という表現と、90°・180°という表現は、同じ物理量を異なる表記法で示している関係にすぎません。
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とても面倒くさい説明ばかりしてしまい、本当に申し訳ございません!
・・ここまで勉強するのに10ヵ月を要しましたね(恥) 恥ずかしいですねッ。
如何ですか??? 光線が反射してしまうのに、その時同時に透過率のほうが上がっていく道理がご理解頂けたでしょうか。この原理が理解できないと、どんなに光学系構成図を理解しようとしても、或いはどんなに光学設計を調べても、基本的な光 (光線) の振る舞いをその反射の原理の中にてイメージできなくなり、論破することができなくなってしまいます(涙) 従って理解し難いと結論づけせずに、また次の機会にももっと詳しく説明できれば良いのではないかと思っています・・。
ここまでの話で、単層膜の場合、或いは複層膜でも、外気に触れる側の堅牢性と低屈折率の前提から、MgF2 (フッ化マグネシウム) が蒸着コーティング層の資料として使われ、現在では最も活躍しているほぼ独占状態に近い鉱物ですが、その発明概念の確立が1935年からの話という史実が判明したので、未だ100年経過していないという、意外にもついこの前の話だったことが今回の探索で勉強になりましたッ! 当方にとっては、まさにそのような成果こそが自身の研究、いえそんな言い回しは誇張的で偉ぶって受け取られてしまいますねッ! 単なる基礎的な、初歩的勉強です! まさにその成果として、今回の探索では当方なりに礎のひとつになったと感じていますが、今頃このような勉強をしている始末で、本当に皆様には申し訳ございませんッ!
・・な〜んにも知らないくせに、今まで15年間もよくも偉そうに語ってきたなッ!
お叱りの声が、今も耳元で聞こえてきます・・(涙)
ここまでの超長文にお付き合い頂きました方がもしもいらしたら、心から感謝とお礼の思いを述べさせて頂きたいと思います・・・・、
・・・・ありがとう御座いました!(祈) お付き合させてしまい、go・men・na・sai!
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ここからは今まで探索し研究してきた当時ソ連のKMZの状況を鑑み、且つ今回扱ったモデル「ЗК 1:1,5 F=5см П 19
48 N`0010xx」から取り出した光学ガラスレンズを、当方の手によりデジタルノギスを使い逐一全ての光学硝子レンズを計測した実測値、及びトレースした光学系構成図を基に、記号的推論形式と通時的比較分析を駆使して光線光路を辿りつつ以下のように実装光学系の硝材を特定しました (探索して取得した情報も参照して推論として実施)。

↑上に挙げた図は、オーバーホールの際にそれぞれの量産品個体から取り出した光学系の清掃時に、当方の手でデジタルノギスを使い逐一全ての光学硝子レンズを計測したトレース図です。
㊧:Carl Zeiss Jena製 Sonnar 5cm f/1.5 T《1941年製》(LTM)
㊨:KMZ製 ZK 5cm f/1.5 П《1948年製》(LTM)
以下にそれぞれの各構成別実測値と放射線量を掲出します。
↑上の一覧表は、先日扱った戦前Carl Zeiss Jena製Sonnar 5cm f/1.5 Tと、今回扱ったKMZ製ZK 5cm f/1.5 Пの、それぞれの構成別実測値と放射線量を示しました。デジタルノギスによる計測の為の許容誤差が僅かに顕在しますが、明らかに異なる実測値を示している箇所も確認できます。これら実測値と放射線量を下に、トレースした光学系構成図が直前に掲出した光学系構成図になります (但し、ここには各構成別の空間配置距離の実測値は示していませんから、特に絞り羽根の前後の空間距離が光線光路を辿る際の参照値としては重要になります)。
例えばこれら実測値を見ただけでも前後群の中を構成別にチェックしていく時、光学の勉強ができていれば視えてくるのです・・構成の2枚目と3枚目で何をヤッているのかが一目瞭然ですね(笑)外径はほぼ同一なのにコバ端の厚みが反転しています。しかもこの3枚貼り合わせレンズの全高がやはり変化しているのです・・これは「或ること」を狙ってこのように光学設計を変更してきたのです。その結果が後群でまさに如実に現れています。これが当方が言うところの「仮説」なのであり、捉える角度の「根拠」なのですッ。このように見えていけば、どの数値が許容誤差範疇で、どの数値が具体的な相違点なのかまで理解が進みます (いずれも実測値は数回計測した平均値)。
結果、実測値と光学系構成図から三角関数などを使って導き出せば曲率が求められることから屈折率が計算できます。さらに放射線量の実測値から、当時流通していた硝材カタログ値との照合の中で具体的な硝材名候補の特定も適うワケです。
↑上の一覧は、今回扱ったモデル「ЗК 1:1,5 F=5см П 19
48 N`0010xx」について、以下の4つの事前情報を基に検討を重ね、各構成別に使用硝材を特定しています (但し互いの比較の為に、敢えてドイツSCHOTT製硝材に該当性を求めています)。
ちなみにこれら硝材名の中で特に「要注意」なのは、構成3枚目に使われているソ連産の「OF1」と言う硝材です。当方はそもそもソ連産硝材名に慣れていない為、ChatGPTを使って確認しながら研究を進めていますが、問題なのは「そのChatGPT自身が間違った解答を平気で答えてくる」から堪りません・・!(汗)
今回ChatGPTが間違った解答を出してきたのは、たまたまこの硝材が「クラウンフリントガラス」と言う「フリントガラス」の大分類に属する系列名であるにも関わらず「クラウン」と「フリントガラス」と言う2つの名称が連なっていた点で誤回答を出してきたことにあります(汗) しかしこれはSCHOTT社の硝材カタログの凡例注釈を確認すれば済むのに、ChatGPTはそれを怠りました。従って「当初の解答はフリントガラス寄りのクラウンガラス」と言うまるで不正解だったのです。つまり略号体系の読み取りを誤ったことに起因する解答振れだったのですが、ChatGPTは平気でそういう誤回答を出してくるので堪りません(涙) いちいち当方の検証作業を経なければ、適正性を担保できないのです (毎回必ず適正性の判定は人間が検証しなければイケマセン)。
つまりChatGPTは探索はすれど、当てにはならないと言う意味です(汗) その一方で「記号的推論形式」や「通時的比較分析」に「縮尺確定型光線逆算手法」と言う学術的な手法を根拠に当ててくれるのは、当方にはできない分野ですから助かります。そして最終的には当方自身の光学の勉強の成果が試されるのがこれら検証作業であり、そもそもこのような事前情報を捉えた時点で「凡その推測」に相当していなければ、検証の方向性すら見誤ってしまいます。今回のモデルで言えば、ZKモデルでの明確な光線の変異が特に後群側で確認できた為 (その根拠の多くは実測値です)、そこから自ずと前群側の挙動にも推測が立ち、自然に導かれたのは「硝材の訂正が介在している仮説」がその段階で予測できているワケです。従って硝材名候補を探索した結果との整合性に「合致」しない限り、その「仮説」が成立しないことになります。つまりここでの特定作業は「仮説の成立」だけが採用の一致点であることを大前提とした探索結果なので、当方的には相当な信憑性を確保できているのです。
逆に言うなら、探索結果と仮説が一致しなければ、今ここに掲出している一覧表も根拠も何も意味を持たない為、そもそもこのように掲載して解説することが・・できません! つまり自身が納得できていない根拠を、そのままストーリー的に仕立てて掲出できないことを語っています。それは実際に、当方の思い込みや勘違いで間違った仮説を組み立てていることがありますから、このような探索結果との整合性 (合致点) を根拠に当てている次第です。当方は学術的に専門職ではないので、このような手法しか採れないことを、ここで告知させて頂きます・・ご留意下さいませ。
・・つまり専門職ではない為 (学者ではないので)、どのように探索したところでその信憑性は決して担保できません。
なお皆様には分かり易いように、上の一覧表では「クラウンガラス」を 色付で背景着色し「フリントガラス」を 色付で背景着色しています。するとご覧のように今回扱ったモデル「ЗК 1:1,5 F=5см П 19
48 N`0010xx」は、最後の後玉たる構成7枚目だけがクラウンガラスと言うひたすらに透過光の波長別分散を促していた配置だったことが判明したのです (次の一覧表でそれをご確認頂けます)。
◉ クラウンガラス (Crown glass)
屈折率が比較的低く、アッベ数が高い (つまり分散が小さい) 光学ガラス群を指します。一般に主成分はシリカ (SiO₂) にアルカリ金属酸化物やアルカリ土類酸化物を加えた組成で、色収差を抑える側の特性を持ちます。光学設計では像の基本的な結像性能を安定させる役割を担います。
◉ フリントガラス (Flint glass)
屈折率が高く、アッベ数が低い (つまり分散が大きい) 光学ガラス群を指します。鉛酸化物や高原子量成分を多く含む組成が典型で、波長による屈折差が大きく、クラウンガラスと組み合わせて色収差補正に使われます。
結果、これは同種のものがドイツSCHOTT製硝材リストにも系列として用意されている分類であることが確認できたため、低い屈折率を持つフリントガラス系 (大分類の) 硝材であり、アッベ数約51vd前後の中程度の分散を示す硝材、且つ物性上は低屈折率フリントガラスに分類されます。従ってこの第2群の3枚貼り合わせレンズの中核に位置しながら、低い屈折率で且つ中程度の分散を持つことで、貼り合わせ設計内に於ける色収差補正バランスを、ドイツ製1941年版Sonnarに比較した時、変化させる役割を担います。結果、ZKモデルの光学設計思想の中で、この位置で明確に結像の方向性を変更していることが分かるのです。次の一覧表で該当箇所 (構成3枚目) 部分をチェックすると理解できます。
❶ 今回扱った個体から取り出した光学ガラスレンズの実測値と放射線量
❷ その実測値に基づくトレースした光学系構成図
❸ 1967年時点のGOI (国立光学研究所) のレンズカタログからのJupiter-3情報
❹ 1967年時点のソ連で実際に用意されていた硝材カタログのリスト
↑同様、今度は1941年製のSonnar 5cm f/1.5 Tモデルとの硝材比較です。この時Sonnar側の硝材を支配的に特定できた最大の根拠は、ベルテレが1937年に出願した特許出願申請書の記述内容にあります。以下参照した前提情報です。
一つ前の表の解説に加えて注目すべき置換は、後群側の構成6枚目に於ける SSK5 (1.65844ns / 50.88vs) → BaF10 (1.67003nd / 47.11vd) です。この差は、後群の中で「屈折率を上げる」と同時に「分散を増やす」方向への変更です。後群は像面直前で光束の角度と像高側の収差配分に効くため、ここで分散側へ寄せると、軸上色収差と倍率色収差の配分が変わり、結果として色収差の残り方と補正の効き方が入れ替わります。
描写として観察される差分は、色に関しては「軸上方向の色ズレ」と「周辺側の色ズレ」の出方が変わる点に集約してきます。さらに屈折率の上昇が見受けられる結果、後群で必要な屈折力を少ない曲率変化で成立させる方向に働くため、球面収差の残り方や像面湾曲の配分にも影響し、ピント面の芯の出方と周辺側の収束状態が、明らかにSonnar側とは別の整合に仕向けられていることが理解できます。低周波 (大まかなコントラスト)、中周波 (形の輪郭)、高周波 (細部の線) という観点では、後群のこの置換は「中〜高周波側の崩れ方の様式」と「色ズレが輪郭に干渉する仕方」を変える要因になっていると理解できるのです。
❺ 『GB497550A (1937-07-13)』英国内務省宛て出願
Zeiss Ikon在籍時のLudwig Jakob Bertele (ルートヴィッヒ・ヤコブ・ベルテレ) 発明。
❻ 前回扱った個体から取り出した光学ガラスレンズの実測値と放射線量
❼ その実測値に基づくトレースした光学系構成図
❽ 当時流通していたドイツSCHOTT社の硝材カタログのリスト
このような参照に値する一次情報、及び具体的な量産個体から取り出した光学ガラスレンズの実測値とともに放射線量まで測定した結果から、そのトレースした光学系構成図を基に「縮尺」を特定できたことによって初めて、曲率と厚みに空間配置の根拠を特定でき、そこから逆算した「屈折率」と「アッベ数」を基に具体的な硝材名を特定した作業になります。その際使用した論理手法は「記号的推論形式」と「通時的比較分析」に「縮尺確定型光線逆算手法」なので、あたかも当方の憶測でしか語っていないように受け取られてしまうものの、実は理論破綻せずに、且つ光線光路を逆算的に辿る手法を用いて、そこから当時入手可能だった硝材名をピックアップしている手法なのです。
このような手法を使っても、確かにリアルな現実に採用されていたであろう硝材名を特定する事は難しいかも知れませんが、少なくとも1967年時点のGOIレンズカタログに記されていたJupiter-3の硝材情報を含む一次資料との整合性が、これら実測値のデータからも裏付けされたことが確認でき、相応の信憑性は確保できたのではないかと受け取っています (但しあくまでも推論範疇に留まるべき論説と論拠です)。
如何でしょうか・・??? 当方がどうして光学系構成図の把握にこだわるのか、そしてその際にどうして各構成別での硝材の特定にこだわるのか、その理由の全ては光線光路を辿ることで知ることができる、描写を成立させている光学的要因 (収差配分や屈折力配分) がどのように変化したのかを探る手段なのです。
もちろんそれは同一環境と前提条件下で撮影された実写を等倍鑑賞することで厳密に検査すれば、ある程度は探られるものの、それら検査は「あくまでも結像結果から捉えようとする手法」なので、当方には写真スキルが皆無である為に、自らの思考が維持されやすいこのような硝材の特定という手法を使うことを優先しているにすぎません。その時、確かに使用硝材と言う一次資料の公開なくしては「単なる推論の話」に限定されるとの指摘は成立しますが、然しその中にあっても決して憶測にまでフォーカスがボケてしまう探索ではなく、量産品の個体から取り出した光学ガラスレンズの実測値に基づく情報と、そこからトレースした光学系構成図を基にした光線光路を辿る手法には、物性値と幾何条件から屈折率候補を限定できるという物理的根拠が伴うことを求めているのです。その意味で結像結果の検査から求める手法も意義がありますが、当方の得意分野としては、むしろ内部の光学ガラスレンズという (同じ”結果”の話としても) 実装されている光学ガラスレンズの実寸と、実測した放射線量を根拠に、具体的なトレース図 (光学系構成図のこと) から読み取られる曲率と厚みに空間配置の推定を以て、光線光路の特定にまで繋げたいという思惑があるのです。
これは或る意味、オーバーホール後にMTF測定機を使って検査している状況が前述の実写確認による検証作業に一致します。MTF測定機で検査できるのは結像面での挙動の適合性だけなので、もちろんそこには「判定基準値」の存在が必須前提になりますが、MTF測定機では判定された結果の「挙動原因 (問題箇所)」までは測定できません(笑) 従って整備会社の中にはMTF測定機絶対主義の解説を試みている会社様もありますが、それを言うならむしろ必要なのは干渉計やセントレーションテスター、或いは電子コリメーターなどであり、MTF測定機での検査を以て信憑性に該当させることは物理的に不可能です(笑) もっと言うなら、そもそもMTF測定機判定に資する「判定基準値」は、どうやって生産時点の検査基準値を用意できたのかにかかっているワケで、まさか良品個体の平均値から算出している (いわゆる自社独自基準と言うヤツ) とは言わないと思いますが(汗)、その真実は企業秘密らしく、掲出されないままです(笑)
もっと言うなら、良品個体を何の基準値で判定しているのかが今度は問題になるワケで、まさに同道巡りの状況です(笑) つまりMTF測定機絶対主義と言えども、そもそもその基準が凡その世界の話なので (何故なら、MTF測定機は数値で結果を返すからです)、検査に使っている機械だけがピックアップされているような話で・・まるで道理が通っていません(笑)
・・そうであれば信憑性の無さは、まるで当方と同レベルの話だと結論づけられるのです!(笑)
このような話は数年前ですが、工業用光学ガラスレンズ精製会社様での取材時にお話を伺い、合わせて実際に5本のオールドレンズを干渉計やセントレーションテスター、或いは電子コリメーターなどを使い検査してもらった結果、具体的な適正の合否をご教授頂いたことがあるので、その際にMTF測定機が何を検査できるのかも理解できました。課は特定しませんが部長さんのご配慮で実際5本のオールドレンズについて、当方がオーバーホールした個体を検査して下さいました。不合格に至ったのはゼロだった為、まさに「まな板の鯉」状態だったことを覚えています(笑) その際にも基準値が問題になったワケですが、さすが光学ガラスレンズの精製会社様、用意されていた検査の基準値は、光学ガラスレンズの光学系構成から捉えた計算値を基に測定下さいました。例えば前のほうで、複層膜の解説の際に挙げていた光学ガラスレンズの硝材名は「BK7」でしたが、それは業界でも話の具体例としてとても多くの場合で採用されている硝材だったりします。
これにはちゃんと根拠と理由があり「BK7」とはクラウンガラスであって、基礎的な代表値 (屈折率とアッベ数) が中庸に位置しており、且つ当時からSCHOTT製硝材としてとても多く流通していた長年の実績評価から捉えられている硝材名の一つだからです。従って様々な光学メーカーで採用され続けた硝材名には凡その集約性が確認できる結果、光学系構成図からの読み取りでも結果的にはその硝材名に集約していく傾向が掴めるとのお話でした。而してそこには、必然的な曲率と厚みに空間配置という前提が必須条件になりますが、光学系構成図が掴めるのであればそこから逆算が適うワケです (つまり当方が採用している手法は一部分で同じ手法を採っています)。
オーバーホールした仕上がり個体の検査をどのように考えれば良いのかご相談したところ、部長さんが語られたのは「幾つか計測器を使うにしてもそれらは1台数百万から数千万円ですから、例え中古品でも個人で手に入れられる対象ではありません。しかも入手してもそもそもの基準値設定に限界があります。それを考えたら意味が無いので、実測値と計算値を基に判定するのが最も有効です」とご教授頂き、その手法を参考に独自計算手法を編み出し採用している次第です。その結果、導き出される内容は、実は多くの場合でそれら測定機械を使った時の「設定基準値の範囲に収まる」挙動に収束していきますから、その根拠が流通硝材との整合性と言う話になっています。まさに「まな板の鯉」に収まった5本の有名処オールドレンズの測定結果から逆算的に教えて頂いた、計算手法 (普通は社外秘です) を教えて頂いた結果、今現在の当方のこのような硝材名特定作業が体現できている次第です!(涙)
実は取材の時に事前に持っていく5本のオールドレンズのモデル銘を教えるようご指示がありました。どうして事前にモデル銘が必要なのか分かりませんでしたが、取材の結果その理由が判明しました。部長さんは事前に硝材名をピックアップしていてくれたのです (ありがとう御座いました)!
当方が採用している計算手法は、良品個体から計測した平均値ではなく (そもそも良品個体の判定基準に担保が無いのだから意味がない)、実測値から導き出される「硝材別」の計算値なのであり、そこに実測値を基にトレースした光学系構成図から読み取られる曲率と厚みに空間配置を代入して最終的な計算結果を導き出していますから、要は「基準値の導き方が全く違う」点で、MTF測定機を使う必要性が無いのです。結果、それら解答値を活用すれば、まさに以下に示すMTF曲線グラフすら生成できてしまうのです! 然し、当方の手元にはMTF測定機は・・ありません!(笑)
※これら計算には、別のAIに当方が教えて頂いた計算式を記憶させて計算しています。
詰まる処、桶屋は桶やみたいな話で、なんとも恐縮ですが、見立ての掴みどころ、要は角度が必ず問題になることを教えて頂いたのです。表面だけ見ていては、結局掴めていないのですョ・・(笑)
・・重要なのは検査機械設備ではなく、判定基準のほうだったのです!(驚)
今は既に削除してしまいましたが、当方が15年前に立ち上げた『出品者のひとりごと・・』というブログを懇意にして頂いた縁から、金属加工会社様と工業用光学ガラスレンズ精製会社様という強力な助っ人を得て、当方の15年間の歩みは支えられてきました・・感謝でいっぱいです(涙)
部長さん! その節は本当に何から何までありがとう御座いました! おかげさまで今も計算が適い活用させて頂いています。当方へのいつものアドバイスも、本当に感謝しています。ありがとう御座います!(拝)
その上で、具体的な今回扱ったモデル「ЗК 1:1,5 F=5см П 19
48 N`0010xx」の描写の特徴について、1941年製Sonnar 5cm f/1.5 Tとの比較として、何がどう変わったのかについて推論を以下にまとめてみました。
硝材置換点の意味を探る ― 特許GB497550Aの主旨との対応構造 ―
特許出願申請書『GB497550A』は、4つの空気間隔を持つ広口径対物レンズに於いて、像鮮明度を維持しながら歪曲を低減することを主旨としています。構成1枚目と構成3枚め、そして最後の部材を収束作用とし、第2群の部材を物体側凸メニスカスとする構成が中核です。
ZK もこの4つの空気間隔構造と前群強屈折配置を維持しています。各構成の1〜2枚目に位置する高屈折硝材は、物体側からの光線を強く収束させ、中央像の解像を優先する役割を担います。また構成3枚目は前群内で色収差の配分を調整する位置にあり、ここに分散の異なる硝材を置くことで、軸上色収差と倍率色収差のバランスを制御しています。さらに構成4枚目の強分散硝材は、前群で生じた色収差を相殺しつつ、特許出願申請書『GB497550A』が重視した「低歪曲条件」を維持するための収差配分を支えていると理解できます。
一方の後群側 (構成5枚目 ~ 7枚目) は、像側に於ける光線の再収束を担い、非点収差・コマ収差・像面湾曲を整合させる役割を持ちます。ZKではこの後群に分散の強い硝材が再配分され、歪曲を抑えつつも中心近傍の像を保つというベルテレの設計思想を前提に、周辺域の収差配分を別の条件で成立させる構造になっていることが掴めたのです。
ZK が Sonnar から変えた点 ― 量産事情と周辺域特性の変化 ―
ZK は、Sonnar と同一の光学形式を保ちながら、複数箇所で硝材置換を行っています。これらの置換は屈折率と分散の配分を変更するものであり、収差分布に直接影響してきます。
確かにベルテレの基本設計主旨 (低歪曲と中央像の鮮鋭度維持) は継承されています。しかしソ連側の量産体制では、当時のドイツと同一系列の硝材を安定供給することが困難であったため、近似的特性を持つ硝材への再配分が行われる必要がありました。その結果、中心域の結像思想は維持されつつも、後群側の分散の強化によって、周辺域の収差配分は再構成されました。すなわち、中央像の鮮鋭性を保持する方向を優先しながら、外周域の描写特性はSonnarとは異なるバランスへ変化しています。ZKは光学形式としてはSonnarを継承していますが、量産最優先の設計再配分の結果として、周辺域の写りは明確に別の性格を持つモデルへ変異したと整理できたのです!(驚)
・・実はこれが巷でZK、或いはJupiter-3の写りが、Sonnarと違うと評価される本質なのです!
つまり描写特性を大きく変えてしまったのは光学系構成内での「硝材の置換作業」であり、且つその根拠は「当時のソ連の量産体制に依拠した整合性」であったと結論づけられました。従ってそこにはベルテレの光学設計に対する良し悪しや是非について一切評価することなく、そのままに然し当時のソ連で精製できる硝材の制約の中から「やむを得ず量産体制を最優先に据えて訂正した」との経緯が透けて視えてきた次第です。
もっと言うなら、どうして当方がこのような「硝材の置換作業」に気づけたのかと言えば、そもそも製品版の比較時点で「SonnarとZKの写りが違う」と言う巷での評価が確認できている点を以て、その根拠を探すべき道理に繋がっていますが、実はその写りの違いよりもやはり最も最優先された事実は「光学ガラスレンズの実測値が互いにまるで違っていたこと」に尽きるのです。つまり戦前ドイツ製Sonnarと曲率や厚みに空間配置まで変更しているとなれば、その理由と根拠には何某かの背景が伴わなければ、説明がつかないという道理に帰着するのです。しかもその時、接収したドイツ人技師達の監修の下にあった環境下でも「なお訂正された光学設計」との一点に於いて、実はそこに隠されているハズの真実が介在しなければ、矛盾しか残っていないままに創り上げられてしまったモデルでしかないとの結論にしか到達できないのです・・つまりそれ程に各光学硝子レンズの実測値の相違は「衝撃的」だったワケですッ!
ここまでの解説からZKの基本光学設計概念が、1937年時点のベルテレによる発明であったこと。さらに戦後の接収ドイツ人技師達の監修の下にあったこと。さらに敗戦時のCarl Zeiss Jena工場から接収した硝材を使っていること (1948年時点の生産個体だから)・・にもかかわらず、このように最終的に写し出された結像面の描写性が、どうしてSonnarと違うのか、その最終結論が次のように綴ることができるのです。
これら結論づけが示すのは「さすがのソ連」であり、最優先されたのは体制としての「再配分」を達成するための合理的量産体制の確立と維持だったことが見てとれました。そこには性能追求思想は残らず、あくまでも等しく一定の性能を遍く享受することに主眼が置かれていたこととして、体制の根拠に整合していたことが示され、ここでも資本主義的思想は排除され、追求の方向性はあくまでも「再配分」に於ける効率性だったことが掴めたのでした。国にも国民 (人民) にも等しく要求されるのは、体制下での再配分だったのです。つまりこれこそがロシアンレンズの本質なのではないでしょうか??? 他のオールドレンズモデルも含め、当時も (おそらく今も) 求められているのは体制下での再配分の効率性であり、それこそが当時から2000年代まで粛々と同一の光学設計と製品設計のままに生産が続けられてきた本質があるように当方には受け取られました。
その答えこそが、今まさにウクライナ侵略戦争で示されている、旧ソ連時代から蓄え続けられてきた軍用武装の数々であり、そこで求められたのはたったの一つ「今も動くこと、使えること」と言う、やはり再配分の体制思想そのもの (それを巷ではドクトリンと呼ぶ) なのではないかと、今回の探索で無性に納得できてしまいました。つまり重要なのは「精度」ではなく、使えれば良いだけなのです。精度は人間が代替すれば良いだけで、それはドクトリンそのモノを指しているとしか受け取られないのです。結果武器や武装の一部に人間が据えられている思想であり、その答えが、僅か4年間で150万人という、ロシア軍戦傷者の数に表されていように当方は見えてなりませんね。それら戦傷者の「人生」に想いを馳せると、なんともやるせない気持ちでいっぱいです (たった一度の人生なのに、家族のために2,000万円以下の遺族年金の為だけに、自らの命を賭していくことが是とされる体制とは、いったい何なのでしょうか)。そのように考えると、そこには民族と人種を境界にした現ロシアの本質的な課題が底流に流れているように思いましたね。彼らには一生かかってもそのような遺族年金の金額は稼げず、或る意味当事者には救いの一手だったのではないでしょうか。そのように捉えなければ凍てつく原野で、独り激痛の中で無駄死にしていく最後に、天秤できないように思ったりしますッ。人にとっての「価値観」とは、いったい何なのでしょうか・・。
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では次に、はたしてベルテレの光学設計思想を否定せず、しかし硝材置換を経た写りは、どう変化したのかを探っていく内容に移ります。
↑上に生成した曲線グラフはソ連産の硝材を実装している、1948年製量産品個体「ЗК 1:1,5 F=5см П 19
48 N`0010xx」を参照元としています。実装していると推定できる硝材の特定作業には、1937年にベルテレが申請した特許出願申請書『GB497550A』の発明概念を継承しつつも、当時のソ連の量産体制を最大限に考慮した、効率性の追求を第一義に捉えた光学設計に於ける修正が、一次資料及び探索した情報との整合性から読み取られました。
前に扱った1941年製 Sonnar 5cm f/1.5 T (LTM) でお示ししたこれら曲線グラフを比べてみると、実に微妙に違うことが分かり、またそれはそれで新鮮だったりします・・。
従ってあくまでも推定値として扱う中で生成したグラフについて、以下にその描写性を探る説明を語っていきます。
但し、あくまでも検査用測定電子機械設備を駆使して得られた測定結果から生成したものではない点、ご留意下さいませ。これは個人の立場である当方にとり、数百万〜数千万円する検査機械設備を単なる個体別の計測の為だけに所有する金銭的余裕が無い実情から、現在対応できうる最も効果的な手法を使い探索していった経緯からの前提です。従って、この点を指摘する内容などのメール送信は、どうか切にご遠慮頂くようお願い申し上げます。また測定値のみに根拠を求められる方は、ここからの解説内容は不適切ですので、どうか無視して読み飛ばして頂くようお願い申し上げます。
このように解説前提の根拠概要を明示しているため、誹謗中傷はおやめ下さい。
㊧ MTF曲線 (空間周波数別・像高方向) ― 周辺域低下内容と方向差拡大 ―
1941年製Sonnarでは、前群に高屈折硝材を集中させた構成により中央像高で高いMTFを維持し、周辺へ向かって段階的に低下する形でした。サジタル と タンジェンシャル の差は周辺で増加するものの、40 lp/mm の高周波成分も一定水準を保っていました。
1948年製ZKでは、構成3枚目のFK5 (高アッベ数) からKF9 (中アッベ数) への変更、さらに構成5枚目KF9からF2 (低アッベ数)、構成6枚目SSK5からBaF10への置換により、後群側の分散が強化されています。この結果、周辺光線に対する収差補正配分が変わり、MTF曲線では40 lp/mm の高周波成分が周辺像高でより早く低下する形になります。つまりサジタル と タンジェンシャル の差もSonnarより拡大し、周辺域での線像の安定度が低下します。
描写上は、中央解像の骨格は維持される一方で、周辺の微細描写はSonnarより柔らかくなり、細線の分離が弱まります。これは硝材置換による分散配分の変更が、非点収差および像面湾曲の周辺側バランスに影響した結果です。
※ X軸:像高、Y軸:MTF (コントラスト)
▪青色:低空間周波数 (10lp/mm)、サジタル
被写体の大きな形状・面構成・明暗の塊を再現する能力を示し、写真全体の骨格、立体感、存在感に対応します。
▪緑色:低空間周波数 (10lp/mm)、タンジェンシャル
低空間周波数成分を円周方向で再現する能力を示し、面のまとまり方や、周辺での形の安定性に対応します。
▪赤色:中空間周波数 (20lp/mm)、サジタル
被写体の輪郭・形状の判別に関わる成分を示し、写真で「何が写っているか」を分かり易くする要素です。
▪水色:中空間周波数 (20lp/mm)、タンジェンシャル
中空間周波数成分を円周方向で再現する能力を示し、周辺部で線や形が乱れにくいかどうかに対応します。
▪紫色:高空間周波数 (40lp/mm)、サジタル
細線・微細構造・質感など細部を再現する能力を示し、いわゆる解像感の限界側に相当します。
▪黄緑色:高空間周波数 (40lp/mm)、タンジェンシャル
高空間周波数成分を円周方向で再現する能力を示し、周辺部で細部がどこまで保たれるかの限界を示します。
㊥ 軸上色収差 (縦収差) ― 波長間焦点差の拡大 ―
Sonnarでは、FK5 (70.41vd) を含む高アッベ硝材の配置により、軸上色収差の波長間焦点差は連続的で比較的抑えられた形状を示していました。緑付近を基準に青側・赤側が対称的にずれるものの、振幅は限定的でした。
ZKでは、構成3枚目のKF9化、5枚目F2採用、6枚目BaF10化により、アッベ数のvd値低下が複数箇所で生じています。これは波長別分散の強化を意味し、波長ごとの屈折差が増加します。その結果、軸上色収差グラフでは焦点位置差の振幅が拡大し、短波長側と長波長側の焦点ずれがSonnarより大きくなります。
描写上は、高コントラスト輪郭での色の縁取りがSonnarより明確になり、白黒境界の純度が低下します。中央解像は保持されますが、色収差由来の縁取りが加わることで、像の質感はSonnarよりもわずかに荒れます。これは後群側で分散を強めた硝材置換の直接的影響です。
※X軸:波長 (nm)、Y軸:焦点位置差 (mm)
▪短波長側 (紫〜青色寄り)
紫〜青色光の合焦位置を表し、前後ボケに色付きが出やすい側を意味する。
▪中間波長 (緑色付近)
人の視感度が最も高い基準帯域を表し、実質的なピントの基準となる位置を意味する。
▪長波長側 (赤色寄り)
赤色光の合焦位置を表し、ボケの後縁側に色が現れやすい側を意味する。

㊨ 球面収差(縦収差)― 周辺光線側焦点差の増大 ―
Sonnarでは、球面収差曲線が瞳半径中間域で符号変化を示し、周辺光線側での焦点位置差は一定範囲内に収まっていました。これにより合焦面の芯を保ちながら、前後の焦点外領域への移行が比較的整った形になります。
ZKでは、後群で分散の強い硝材を増やしたことで、周辺光線に対する補正条件が変化しています。その結果、正規化瞳半径が0.7以降での焦点位置差が拡大し、周辺光線由来の収差が増加する形になります。
描写上は、合焦面の中央部は保持されますが、焦点外領域での縁の強調が増し、ボケの輪郭がSonnarより明瞭になります。周辺光線の寄与が増えるため、焦点外のにじみは単純な滑らかさではなく、輪郭を伴った形に変化します。これは後群硝材置換による縦収差配分の変化と整合します。
※X軸:正規化瞳半径、Y軸:焦点位置差 (mm)
▪X=0 付近
中心光線の合焦位置を表し、ピント面の芯の鋭さを決定する意味合い。
▪Xが1に近づくにつれて
周辺光線の合焦位置の変化を表し、ボケの質や、ピント前後の像の変化に関与を示す。
◉ サジタル (sagittal)
像面に於いて、黒白のストライプ状チャート線 (明暗が交互に並ぶ線パターン) が、画面中心から外周へ向かう放射方向に配置された場合に、それがどの程度正確に再現されるかを表す指標。
◉ タンジェンシャル (tangential)
像面に於いて、黒白のストライプ状チャート線 (明暗が交互に並ぶ線パターン) が、画面中心を取り囲む円周に沿った接線方向に配置時、それがどの程度正確に再現されるかを表す指標。
総 論 ― 1948年ZKと1941年Sonnarの描写性比較 ―
用語定義です。ここでの各項目は、MTF (空間周波数別コントラスト)、縦収差 (軸上色収差、球面収差)、像面内収差 (非点収差、コマ収差、像面湾曲、歪曲収差)、および光量・反射特性に基づく描写の違いを指します。
◯ 解像感
中央解像は両者とも前群強屈折構成を共有するため高水準を維持します。ZKは後群側で分散が強化されているため、周辺高空間周波数の低下がSonnarより大きく、外周では細部の分解能が一段弱まります。結果として、中央の芯は近似し、周辺の細線再現はZKの方が緩やかになります。
◯ 階調表現
低~中空間周波数の保持は両者とも安定します。ZKは周辺高周波が早く低下するため、外周域では階調が滑らかに見えやすく、硬い質感よりも柔らかいトーンになります。中央域では両者に大きな差は生じません。
◯ 球面収差
Sonnarは瞳半径中間域で符号変化を伴う縦収差形状を持ち、合焦面の芯と前後のなだらかな移行が特徴です。ZKは後群分散強化により周辺光線側の焦点位置差がやや増加し、焦点外での縁取り傾向が強まります。合焦面の硬さは保持されますが、焦点外の縁の強調はZKの方が明確になります。
◯ 色収差
軸上色収差は両者とも波長に対し連続的に変化しますが、ZKは後群の分散増加により波長間の焦点位置差が拡大し、白黒境界での色の縁取りがSonnarより目立ちます。倍率色収差も周辺で増加し、外周の色純度はZKで低下します。
◯ 非点収差
MTFの方向差拡大から、ZKは周辺像高でのサジタル / タンジェンシャル差が大きくなり、線像の分離傾向がSonnarより強くなります。周辺での線の安定度はSonnarが優位です。
◯ コマ収差
後群再配分の影響により、ZKは周辺点像の流れがやや強まり、点光源の形状保持はSonnarの方が整います。一方でZKは点像が楕円化しやすくなります。
◯ 像面湾曲
両者とも完全平坦ではありません。ZKは周辺収差再配分の結果、周辺合焦位置がより明確に中央からずれ、中央と周辺のピント印象差が拡大します。
◯ 幾何歪曲収差
光学形式は共通であり、歪曲は両者とも低水準を維持します。ここに顕著な差は生じません。
◯ 周辺減光
大口径設計である点は共通です。光学形式が同一であるため、周辺減光の傾向は近似します。硝材置換による差は限定的です。
◯ ボケ質・焦点外領域周波数
Sonnarは焦点外で高周波が緩やかに低下し、背景は滑らかです。ZKは周辺光線由来の縁取りがやや強まり、背景の輪郭強調が増します。中央ボケの柔らかさは近似しますが、周辺ボケの輪郭はZKで明確になります。
◯ フレア制御
1941年SonnarはTコーティングを前提としています。一方で1948年ZKはПコーティングに変わった為、コーティングの品質と均一性に差があり、逆光下でのコントラスト保持はSonnarが安定します。ZKは微小反射が増え、コントラスト低下がやや顕著になっていると受け取られます。
総括すると、ZK 1948年製は中央解像と低歪曲という基本構造を継承しながら、硝材置換によって周辺域の色収差・非点収差・高周波応答が変化し、外周の描写性がSonnarより柔らかく、且つ色の分離と方向差が強い像へ移行しています。中央の明瞭さは保持されますが、周辺域の結像性格は明確にSonnarとは異なる描写性に生まれ変わっていることが、確認できるのです。つまりこれを単にSonnarからの描写性能の劣化として認識するよりも、むしろSonnarの写りを継承した中で別系統の転回を示した表現性と受け取ったほうが、特に中心部と周辺域での整合性に制御されている痕跡が残る以上、その意味ではベルテレの設計思想の主体的要素の継承は、間違いなく維持されているとの受け取りとして、当方は今回の探索で結論づけした次第です。
有効開口径差の設計条件の違い ― SonnarとZKの実効光線条件の比較 ―
実は、完全解体してバラしたところ、1941年製Sonnarの絞り羽根開放時有効内径「20.35mm」に対し、1948年製ZKは「20.41mm」であり、実効開口はZKの方が僅かに大きい実測値を示しました。これは同一表記 f/1.5 であっても、光学系に入射する光束条件が完全には一致していないことを示しています。開口が僅かに大きくなると、光軸近傍を通る主光線に加え、開口周縁を通過する周辺光線の割合が増えます。周辺光線はレンズ面に対してより大きな傾斜角で入射するため、球面収差・コマ収差・非点収差といった開口依存性の強い収差が、相対的に強く現れる条件になります。そのため設計側は、曲率配分や硝材の分散特性を調整し、周辺光線が増えた状態でも像の崩れ方が過度にならないように収差の配分を再設定していることが読み取られるのです。ゾナー型では入射瞳径の差が後群の収差挙動に直接影響するため「この0.06mmの差」は、硝材置換後の収差のバランスに合わせた実効開口の調整として整合しているのです (それはベルテレの特許出願申請書内記述でもそのままに語られていたからです)。結果として両者は光学形式を共有しながらも、実効光線条件および周辺収差の成立条件に差を持つ設計となっていると理解できるのです。
Sonnar の光学設計主旨は、中心像の高い解像感を確保しながら像面全体にわたり結像の均質性を保ち、像面の平坦性を意識した収差配分にあります。これに対して ZK では、前のほうに掲出した構成別対比表に示される硝材置換 (構成3枚目FK5 → KF9、構成5枚目KF9 → F2、構成6枚目SSK5 → BaF10) に伴い、後群の屈折力と分散条件が変化しており、この変化に対応するために実効開口を僅かに拡大する製品設計が採られていたことを示していると指摘できるのです。
この組合せにより、中心像の結像条件は維持される一方で、像面周辺では光線の収束位置分布が変わり、周辺域の像の広がり方と焦点外領域の輝度分布がSonnarとは異なる条件になります。具体的には、ピント面近傍では中心の解像感が確保されつつ、周辺では収差の残り方が異なるため、アウトフォーカス領域に於いて輪郭の滲み方やボケの広がり方が変化し、像面全体の均質性よりも中心部の結像を優先したバランスとして現れます。これらは有効開口径の拡大と硝材構成の変化が組み合わさった結果として、周辺描写の性格を変える方向に働いていることとして説明できます。
この関係から、アウトフォーカス部の滲み方は周辺に向かって段階的に広がり、輪郭が強く残る方向よりも滑らかに拡散していく性質が強まり、背景が連続的に溶けていく描写傾向へと変化していると整理でき、まさに巷で語られているZK、或いはJupiter-3に対する描写性の評価や受け取り方と一致していると受け取られるのです。
このように当方が気づきを得られた、巷で語られているSonnarとZK (或いはJupiter-3との) 描写性の相違点は、実は完全解体して取り出した光学ガラスレンズを実測した実測値が示す互いの相違点に合わせて、このような絞り羽根の有効内径の違いまでがそのまま「光学設計の訂正概念に整合している一点に集約化されていく」ことに根拠として整合できたと結論づけられたのです。従って光学系構成を単なる『カタチ』としてのみ扱わずに、その前後にある光学設計概念や当時の生産時の背景などにまで気配りすることで、このような明確に整合する根拠に導くことが適い、より説得力の高い説明として語ることができることを、ここまでの解説で証明しながら検証してきました。それは単なる写りの印象の違いに留まらない、具体的内容へと説明が展開できる『証』なのです。
一番最初はベルテレがゾナー型に着目した始祖に当たる特許出願申請書を発見し記述を読み、次にその発展経緯の中から非対称型の課題に到達しながらも1937年時点のベルテレ自身に於ける最終到達点を超えて、時代に翻弄された曲折を経て旧ソ連で別の系統として発展していった系統を探り、そこから何が継承されて、何が断絶していったのかを見極めることで、今当方の頭の中では、明確な整理としてベルテレの光学設計概念の何と何がJupiter-3に受け継がれたのかを「語る」ことができるようになりました! しかもそこには並列的に「体制」と言う前提が厳然にあって、その中で潰され消滅することなく生き残っていった (継承された) 設計思想にこそ、真の価値があるのではないかと今、とても新鮮な思いで感動を得ています。
・・このようなオールドレンズの愉しみ方も、当方にとっては「アリ」なのです!(笑)
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如何でしたでしょうか・・。戦前ドイツの1941年製Sonnarだけが基準に据えられるべき話ではなく、実のところソ連で展開されていく別系統と今回認識できたSonnarの末裔も、光学設計概念の中では明確にベルテレの思想の痕跡を残していたことが、取り出した光学ガラスレンズの実態からも、その数学的、物理的根拠からも (もちろん一次資料として扱える特許出願申請書の記述からも) 整合性がとれたことは「一つの事実」として納得するべきなのではないでしょうか・・。
その意味で、今回の探索によって当方のこのソ連で別系統に発展していったJupiter-3の系列に対する認識が更新され、新鮮な意識とともに確定できましたッ!
定義上、これら系統を辿るべき根拠に当てるのは、当然ながら「3群7枚ゾナー型光学系構成」と言う要素だけが本質を維持できる唯一の存在価値です。そこにはベルテレの設計思想が系統の中でどのように継承されていったのか、或いは断絶したのかについて基準に据えられるべきと考えます。この時「原型」はまさに前回扱った1941年製 Sonnar 5cm f/1.5 Tが該当するワケですが (本来は1932年発売のSonnarモデルが該当しますが、ベルテレの光学設計の遍歴を辿るなら、1937年時点の光学設計こそが基準に据えられるのです)、後に旧ソ連で発展していった接収したドイツ人技師によって監修された ZK 5cm f/1.5 Пも、今回の探索で実はベルテレの光学設計思想の多くを継承していた事実を突き止められました。従ってこの点に重みを与えれば、ZKとJupiter-3は「派生型」との位置づけに分類学上セットできるのではないかと当方は考えたのです。
ところが2010年に市場投入された Jupiter-3+ 50mm f/1.5 Art lens は、光学系構成こそ同一種であるものの、光学設計も硝材も設計思想上の連続性が確認できず、明確にその描写性は収差配分の傾向・像面特性・補正方針に於いて異なる挙動を示しています。従ってこの種については派生型の中には組み込むことができず「亜種」との位置づけでしか語れないと当方は確信しました。つまりその根拠には「ベルテレの光学設計思想がどのように残されたのか」こそが語られるべき本質なのではないかと、今回当方は結論づけした次第です。
・・このような捉え方や哲学は、決してその描写性の評価だけでは受け取りようがありません。
而してそこには明確な光学系構成の同一種が確認できる一方で、その吐き出す描写に収差補正思想や硝材選択方針の継承が確認できない時点で、単に「3群7枚ゾナー型光学系構成」であることを指してのみ、同系統の系統樹として扱うべき根拠には決して据えられないとの当方の意志の表れが働いていると指摘できます。それこそが光学系構成図を『カタチ』だけで捉えてはイケナイ良い例になっているのではないかと考えているのですが、皆様のご評価は如何でしょうか・・。
たかがオールドレンズなのでしょうが、当方はその「写り」を成し得た光学設計者の思想と哲学にこそ、確かにそれは単なる成果でしかないのでしょうが、一つの工業製品が人の感性に強く訴えて接点を結ぶ事実に「価値」と「根拠」を与えたいという思いが重なっているのです。
・・オールドレンズ、なかなかに、そしてなかなか、ですョね(笑)

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オーバーホールのため解体した後、組み立てていく工程写真を解説を交え掲載していきます。すべて解体したパーツの全景写真です。
↑ここからは完全解体した後に、当方の手により『磨き研磨』・・つまり『DOH』・・を施した各構成パーツを使い、オーバーホールの組立工程を進めていきます。
ロシアンレンズのことを知らない人にはとっつきにくいモデル銘ですが、ロシア語キリル文字表記では「ЗК」と表記してラテン文字転写で「ZK」になりますから (つまり数字の3ではない)、一般的には「ZKモデル」と呼称されています。冒頭解説の通り、巷では「Zonnar Krasnogorskii」の頭文字を採った表記と伝えられていることが多いのですが、今回探索してみると当時のソ連の資料や研究資料には「Zonnar」と言うラテン文字転写の記述も、そもそものキリル文字で「Sonnar」を表す転写「Зоннар」が存在しないので、もともと呼称されたり記されたりしていなかった懸念すら残ります。つまり単なる音韻転写の「Zonnar」として、むしろ符号的な意味合いで単に、ラテン文字の「Z」を先頭に宛てがっただけのように考えたのです。同じように戦前ドイツで登場していたモデル銘の中で、当時のソ連の写真技術関係資料の中の記述で実際に使われていたキリル文字転写で残るのは、唯一「Tessar銘」だけで「Тессар」とキリル文字で表記されていただけでした。
そこでいろいろ調べてみるとオモシロイことに(笑)、具体名を挙げずに用途別に状態や構造を指して表記する「記述的表現同定」と呼ばれる学術用語に準じた手法を採っていたことが分かりました。まさに今回のモデル銘で言うなら「Sonnar」をキリル文字転写した「Зоннар」は存在せず「объектив конструкции Бертеле (ベルテレ設計のレンズ)」とか「светосильный объектив с трёхгруппной схемой (高開口三群構成レンズ)」などの表記で、実際に発明案件の情報共有という側面で語られていた学術資料の中では「Sonnar」を特定していたようなのです。
するとここにヒントを得て、当方は冒頭のほうの解説でソ連の特許管理体系の概念の違い、特に「GOST」での規格表現の相違に納得が得られたのです。西欧諸国が特定できる名称で通用させる概念なのに対し、ソ連の体制下では「個別の特定の必要性が無い」ことから、特徴や状態、或いは形状や場所などを伴う表現として使う概念があったことに気づけたのです。これにはさすがに言語体系や文字体系の概念の違いが大きく影響するため、なかなか日本人にはピンと来ない要素だったりしました。
その意味で、このような「表現」や「名称」と言う側面のみならず、実はその根底には生まれた時から当たり前に植え付けられてきた「個人の資産 (所有物)を認めない体制」という恐ろしさを、垣間見たような気持ちになったのですが・・皆さんはどのように受け取られたでしょうか。
それは個人としての資産形成だけに限らず、所有という概念そのものを消滅させる思想ですから、みんなのモノの中で、自分が使ったり誰かが使ったりを繰り返している日常で生きていくとすれば、なかなかに、なかなかな世界のような気持ちになりました・・(怖)
これは例えば、日本では水道の蛇口をひねるだけで水が飲めますが、砂漠が主体の国の中には水道というインフラ設備自体が存在せず、川もなく、水は井戸で汲む以外飲むことができないと生まれてからずっと知っていたなら、それが当たり前であり、誰も不平不満を言わないと理解できます。
従って日本人の感覚だけでこのような言語体系と文字体系を特定して説明してしまうことに、今回一歩下がって捉え直す思考も持たなければイケナイと反省した次第ですッ。
↑前回の戦前ドイツの『Calr Zeiss Jena製Sonnar 5cm f/1.5 T《1941年製》(LTM)』の解説と同じですが、鏡胴「後部」に含まれる構成パーツ「直進キーガイド環」に関する解説です。上に挙げた写真は、当方が過去に扱ったKMZ製「JUPITER-3シリーズ」の個体の一つから取り出した時の撮影写真を転載しています (今回の個体とは直接関係ありません)。
「制限壁」の端に、距離環にネジ込まれた1本の太めのイモネジが、カツンと突き当て停止することで、無限遠位置と反対側の最短撮影距離位置の両端を決めている構造です。
この次に別個体から取り出した、同じ部位の構成パーツを写真掲載していますが、実は見てみるとパーツの上面までキレイにメッキ加工が施されています。ところが上の写真を見るとその上面部分は、シルバーに光っているのが分かります。
これは当方が過去に扱った「JUPITER-3シリーズ」の個体の中で「ごまかしの整備」が施されていた、一つの例として今ここに掲出していますが、シルバー部分を削ってしまっていたのです(驚) ほんの僅か0.7mm前後ですが、ヤスリ研磨して削り取っていました。
どうしてこのようなことを処置していたのかと言えば、要は「ニコイチ/サンコイチ」の話で「JUPITER-3シリーズ」どころか、遥か後1960年以降にZOMZで製産されていたJUPITER-3から代替転用したヘリコイド群を合体させていた為に、ヘリコイドのネジ込みで停止した時に無限遠合焦しない個体になっていたのを、ご覧のように削ってしまい対処した経緯が暴露されました(汗)
無限遠位置で停止してもアンダーインフどころではなく、まるでピンボケで円形ボケが表出しているような状態と言えばお伝えできるでしょうか・・(笑)
それを無理やり無限遠合焦させる為に、ご覧のように削ってしまいヘリコイドが深い位置まで回るよう仕向けた「ごまかしの整備」です(笑) 当然ながら光路長を逸脱した結像にしかなりませんから、普通に写っているように見えても、それは真の描写性ではありませんね・・。
アンダーインフ (一度も無限遠合焦していない状態/無限遠に到達していないこと) と言うことは、鏡筒の収納量が足りていないことになりますから、もっと深くまで鏡筒を落とし込みたい一心でこのような処置を講じたことが白日の下に晒されます。
・・「何でもアリのロシアンレンズ」の一端をご紹介しました。
本題に戻り、上の写真の説明としては、この「制限壁」の両端位置と、直下の「直進キーガイド」の両サイドの位置が同軸上に位置しているのが、戦前ドイツで造られていたSonnarの製品設計としての継承要素です。
つまり上の写真の「直進キーガイド環」が入っていた個体の出自は、1950年代辺りのKMZ製「Jupiter-3」モデルの構成パーツと推測できます。しかしそこにネジ込まれたヘリコイドオスメスの組み合わせがZOMZの個体から代替転用したヘリコイド群だったという話にならざるを得ません。さらに言うなら、おそらく光学系まで別モノと推測でき、下手すればレンズ銘板だけが「ZKシリーズ」から転用されていた懸念すら残る「サンコイチ品」かも知れないのです。
・・「何でもアリのロシアンレンズ」の恐ろしさがご理解頂けるでしょうか???
↑まさに衝撃的な1枚の写真ですが(驚)、今度はやはり当方が過去に扱った「1960年製」個体からの転載写真です。1960年の生産物なので、KZM製ではなくZOMZ製になりますね・・。
「制限壁」や「直進キーガイド」の存在と役目に仕様は全く同一ですが、然し大きな変更として「制限壁の方向性 (ブルー色ライン) と直進キーガイドの方向性 (オレンジ色ライン)」がご覧のように大きく位置が変わりました!(驚)
これが意味するのは「ヘリコイドオスメスの条ネジ山の勾配が変わった=鏡筒の繰り出し量が変化した」ことを明確に明示していることにしか結論づけできません・・それは物理的にです!(驚)
つまりこの「制限壁」によって制御されている内容は、この制限壁に突き当たることで「無限遠位置」と「最近接撮影距離位置」の両方を確定させている目的と役目なので、その位置が変わったことを表していることに「同義」だと・・言っているのです。
・・それが意味するのはヘリコイドオスメスの条ネジ山の勾配の変化、以外に説明が付きません。
…………………………………………………………………………
敢えて一番最初にこのような具体的、且つ明白な『根拠』と『証拠』を挙げて説明しましたが、当方は以前に一番最初にこのモデル「ZKシリーズ」や「JUPITER-3シリーズ」などを扱った時に、既に「観察と考察」によって「原理原則」に則り説明づけが完了していますが、未だにこのような内容をちゃんとネット上で解説しているサイトが・・皆無です!(笑)
従ってこの鏡筒を繰り出す繰り出し量が関係する「直進キーガイド環」の仕様設計の変更に関し・・・・、
㋐ Carl Zeiss Jena製 (1941年製) Sonnar 5cm f/1.5 T
㋑ KMZ製 (1948年製) ZK 5cm f/1.5 П
㋒ KMZ製 (1952年製) ZORKI ZK 5cm f/1.5 П
㋓ ZOMZ製 (1960年製) JUPITER-3 50mm f/1.5 П (black)
・・の状況を調べた時・・・・、
▪戦前ドイツ精錬による構成部材、且つ戦前ドイツの製品設計を継承:㋐と㋑
▪戦後のソ連精錬による構成部材、且つ戦前ドイツの製品設計を継承:㋒
▪戦後のソ連精錬による構成部材、且つ戦後ソ連の新しいの製品設計:㋓
このような変遷が確実になりました。従って上に並べた個体の生産年度は、あくまでも当方が手にした個体の生産年度に限定した話なので、実際に何年からこのような経緯を辿ったのかは不明なままですが、経緯の中身がこのように遷移していった事実だけはほぼ確定と考えられます。
・・するとここから (確定ではないにしても) 或る一つの事柄が視えてきますッ。
つまり1952年時点では、もしかすると敗戦時のCarl Zeiss Jenaから接収した部材の在庫が完璧に潰えてしまい、ソ連精錬のアルミ合金材を使いつつも戦前ドイツから継承する製品設計に頼っていたことが分かるという点です。その一方で1960年に入ると、継承し続けたドイツの製品設計ともついに決別し、全くソ連の都合だけによる製品設計へと大きく変化していった経緯が見えてきたことになっています。それはおそらくは鏡筒の繰り出し量を変更している製品設計の訂正作業から、その根拠には「光学ガラスレンズの硝材の新規開発 (による光学設計の改定作業)」が大きく関わる可能性が捨てきれないと言う・・新たな課題に直面しています。何故なら、鏡筒の繰り出し量の訂正作業なので、その本質は光学系の再設計しかあり得ません。そしてその根拠には硝材の新規採用が関わっていない限り、光学系を再設計する必要性は低いと考察する以外に納得できないのです。
・・如何でしょうかッ!
従ってもしもこれら内部構成パーツを「ニコイチ/サンコイチ」していた場合、必然的に無限遠位置も最短撮影距離位置も共に変わっている構成パーツの合体と言う話にしか到達しないため、まさにそれこそが何かの不都合や不具合が残っていると言う「現実的な瑕疵内容として顕在化したまま、市場流通を続けている」が故の、ロシアンレンズの実上と言う話になっている事・・どうか皆様もご覚悟頂きたいと思います。
・・つまり整備して必ずしも改善が期待できると限らない前提が「有る」との覚悟です!
それはそうです! そもそも適正な本来の正しい構成パーツだけで組み立てられていないのですから、どんなに整備しようとも適正な状態には戻らないのが道理なのではないでしょうか???
もっと言うなら、鏡筒の繰り出し量が変わった後の個体から光学系だけが代替転用されてしまった場合、必然的にその描写性能まで適正ではなくなる道理が・・この時点でちゃんとご理解頂けているでしょうか??? つまりはそういうことを語っているのです! 内部の構造も組立状況も自分には関係ないと言う人がとても多いですが、その結果「全く別モノの写りを見て一喜一憂している」のだとしたら、それっていったい何を基準に捉えていらっしゃるのですか???・・と問うているのですッ。それが通用するなら、だったらオールドレンズなんて、何でもいいじゃん!と言う話を今、しているのです・・(笑)
それが「何でもアリのロシアンレンズだから!」との言い草になっているのです・・確かにお伝えできたでしょうかッ。
↑ここからは完全解体した各構成パーツの、当方の手による『磨き研磨』が終わった状態で、組立工程に入っていきます。
上に挙げたのは「鏡筒」とその最深部に組み込まれる絞りユニットの構成パーツで「開閉環 (手前㊧)」と「C型留め具 (手前㊨)」であり、共にアルミ合金材です。
先日扱ったSonnar 5cm f/1.5 T (LTM) の1941年製モデルでは、アルミ合金材の精錬状態の品質が良く、一見しただけですぐにドイツ製だと分かるレベルと言う場お伝えできるでしょうか。一方で今回の個体の (上の写真の) アルミ合金材は、既にソ連産のアルミ合金材にチェンジしていることが分かります。それでもさらに後のタイミング、1955年以降に製産されていた「JUPITER-3シリーズ」の同一パーツと比較すると、まだまだ品質が丁寧に精錬されています。
つまり1948年時点では、冒頭の探索のとおりドイツ人技師達が監督しながらアルミ合金材の精錬を行っていたであろうことが、これらパーツの確認だけでも伝わってきます。せっかくドイツ人技師達の監督を受けて育った若い工員が、1950年代以降ドイツ人技師達が帰国していった後、自ら指揮を執って精錬していくものの、おそらくは中央の指示により、精度や品質に丁寧さにこだわらず、工程を省いたりなど効率のほうを求めた結果、1955年以降の「JUPITER-3シリーズ」の同一パーツの状況に落ち着いていったことが見えてきます。
絞り羽根には表裏に「キー」と言う金属製突起棒が打ち込まれており (オールドレンズの中にはキーではなく穴が空いている場合や羽根の場合もある)、その「キー」に役目が備わっており (必ず2種類の役目がある)、生産時点でこの「キー」は垂直状態で打ち込まれています。
◉ 位置決めキー
「位置決め環」に刺さり絞り羽根の格納位置 (軸として機能する位置) を決めている役目のキー
◉ 開閉キー
「開閉環」に刺さり絞り環操作に連動して絞り羽根の角度を変化させる役目のキー
◉ 位置決め環
絞り羽根の格納位置を確定させる「位置決めキー」が刺さる環/リング/輪っか
◉ 開閉環
絞り羽根の開閉角度を制御するために絞り環操作と連動して同時に回転する環
◉ 絞り羽根開閉幅
絞り羽根が閉じていく時の開口部の大きさ/広さ/面積を指し、光学系後群側への入射光量を決定づけている
㊧の写真で、絞り羽根の一部を矢印で指し示している箇所がありますが、ブルー色の矢印で指し示している箇所がキレイに整形されないままにプレッシングり結果が残っている箇所です。一方のグリーン色の矢印で指し示している箇所には、その乱れが残っていません (つまりキレイにプレッシングされている)。このようなプレッシングのブレは、戦前ドイツ製のSonnar含め、凡そどのモデルでも起きていなかった事柄なので、如何にソ連の工作技術が低かったのかが分かる事実です。
↑この写真で比較すればよく分かるでしょうか(笑)・・グリーン色の矢印で指し示している箇所が適正で、ブルー色の矢印のほうはプレッシングがブレています。この絞り羽根の硬さも精錬が低くなっている為ペラペラに変わっていますが、それは旧東ドイツのCarl Zeiss Jena製品でもさらにペラペラに薄く変わりますから、やはり体制の影響なのではないかとみています。
それこそLeitz/Leicaの絞り羽根になると、この3枚分くらいの厚みがあったりしますね(笑)
↑先日扱ったSonnarの解説時にもこの写真を使いましたが、SonnarとZKの鏡筒のサイズの違いを説明しています。
上の写真は Carl Zeiss Jena製 (1941年製) Sonnar 5cm f/1.5 T (LTM) の鏡筒 (㊧) と、KMZ製 (1948年製) ZK 5cm f/1.5 П (LTM) の鏡筒 (㊧) を、並べて撮影しています。
するとご覧のように最下部に赤色ラインで水平位置を特定していますが、そのまま上方向にラインを上げていくと、㊧と㊨とで水平位置が微妙に一致していない事実が判明しますし、そもそも鏡筒の全高寸法がご覧の通り実測値で異なっていました。
❶ 7.25mm (㊧) vs 7.41mm (㊨)
❷ 6.55mm (㊧) vs 6.43mm (㊨)
❸ 6.98mm (㊧) vs 7.69mm (㊨)
❹ 3.29mm (㊧) vs 2.61mm (㊨)
❺ 6.09mm (㊧) vs 6.27mm (㊨)
・・ですから、明確に異なるように受け取っています。特に❸と❹はZK側を基準にしています。
するとこれらの結果、絞り環のネジ込み位置とそのネジ長が違うことが分かり、さらにもっと言うなら、鏡筒最下部がヘリコイドオス側筒の最深部に (つまりマウント部直下に) ネジ込まれるネジ山になる為、そのネジ長も異なることから「そもそもの光学設計上の光路長が違う」懸念すら発生する点に注意が必要だと理解できます。もちろんそれは例えば格納箇所の研削で相殺している可能性も捨てきれない為、これらの実測値だけでは結論づけできませんね・・。
然し間違いなく、ロシアンレンズの時代に入ると、戦前ドイツの製品設計の継承は、次第に薄れていったことだけは確実視できそうですッ。
例えば鏡筒内部に、光学系第2群の3枚貼り合わせレンズが格納されるシルバーに研削されている格納箇所がありますが、Sonnarではそこに第2群が格納する際はほぼピタリの内径だったものの、ZKのほうは僅かに余裕が残っていて、或る意味誇張的に表現するなら、カパカパ状態だったりしますから「反射防止黒色塗料」をコバ端着色して、ちょうど良い感じなくらいです。
↑ここからは各群と構成の光学ガラスレンズを撮影していきます。光学系前群を赤色文字で表記し、光学系後群をブルー色文字で表しています。またグリーン色の矢印が指し示している方向は、前玉の外気に触れる露出面側方向を表しています (つまり被写体側方向)。従って後群だけは、絞り羽根を堺に向きが反転する結果、ご覧のようにグリーン色の矢印の向きも反転しています。
↑同様裏面側を上に向けて撮影しています。既に当初バラした直後に確認できていたコバ端部分の「反射防止黒色塗料」は全て溶剤で溶かして排除していますが、一部にご覧の通り「溶剤でも溶けない生産時点の塗料が残っていた」部分は、そのままにしています。
↑こちらは今度は、各群別に光学ガラスレンズを直接Sonnar vs ZKで並べて撮影していきます。
具体的な各群のサイズの違いは以下のようになります。
↑当方の手によるデジタルノギスを使った実測値 (数回の実測に於ける平均値) なので、信憑性は低いですが一応互いの比較が適います。上の写真は前玉なので、上の一覧表で言う処の「1枚目」になります。
↑今度は第2群の3枚貼り合わせレンズでの比較です。ここでの注目ポイントは「貼り合わせ面のコバ端の厚みが互いに異なる点」です!(驚) また実際の構成4枚目のコバ端の厚みの違いも、一目瞭然ですね(汗)
↑今度は後群側に移って第3群の3枚貼り合わせレンズです。やはり3枚貼り合わせ面のコバ端の厚み自体がそもそも別モノなのが視認でき、この結果がまさに冒頭解説のとおり曲線グラフでの、グラフの相違点として明確に現れる結果「要は互いの描写性が異なる道理に到達する」結論づけにしかなり得ません。
・・何故なら、3群7枚ゾナー型光学系の描写特性を決めているのは、この第3群だからです!
かと言ってこの第3群だけが光学設計面で変更されれば良い話ではなく(笑)、必然的にそれは光学系前群側の光学設計の変更まで必須条件になりますから、結果的に光学システム全体の「再設計」が成されているとの結論にしか到達しないと・・今、語っているのです!
このような写真こそが、冒頭でさんざん解説してきた光線光路を辿ることで探索の結論づけを狙った解説の『根拠』であり『証拠』でもありますから、なまじ当方の憶測や当てずっぽうだけを論拠に仕向けて語っている話ではないのです(笑)
実際に現ブツを眺めて実測して放射線量まで計測して硝材を特定する必要性から、光学系構成図をいちいちトレースして曲率を出し、厚みと空間配置まで特定した上でAIを駆使して当時流通していた硝材候補だけを参照値に据えた上で、その中からピックアップしているのです。何故なら、曲率や厚みに空間配置が確定しない限り、具体的な設計図面の「各光学硝子レンズの原寸が不明」なのだから、このような手法を使って探るしか、当方には手立てが無いのです・・(恥)
特許出願申請書の内容や仕様諸元値はあくまでも量産品個体には該当しないというのが基本前提ですから、その上で実測値を基に硝材候補を特定した結果、初めて発明時点の開発概念との整合性が確認でき、その結果「開発概要と量産品が一致の方向性で製品化された」のかどうかが決まるワケですから、その概念を最初から混用してしまっては元も子もありませんョね(笑)
↑組立工程を続けます。鏡筒最深部に絞りユニットを組み付けたところです。
最小絞り値まで絞り羽根を閉じていますが、その直前に「シルバーに光る箇所」が2つあります。ここに光学ガラスレンズが格納されます。絞り羽根直前に3枚貼り合わせレンズの第2群が格納され、一番手前側の薄いシルバーの箇所の第1群前玉が格納されます。他の部分には「明るめのオリーブ色の金属メッキ加工」が施されています。シルバーにアルミ合金材の地のままに仕上げられているのは、光学ガラスレンズを確実に格納する為にメッキ加工まで施していない配慮からです。
↑完成した鏡筒を立てて、前玉側方向を上に向けて撮影しています。鏡筒外側も同様「明るめのオリーブ色の金属メッキ加工」が施されています。フィルター枠の外壁はブラックのメッキが施されています (先日のSonnarはシルバークロームメッキ)。
↑次にこの鏡筒の周りに絞り環を被せていきます。絞り環の構成パーツは上の写真のようになります。
▪鏡筒
❶ 絞り環 (アルミ合金材)
❷ 絞り環用ベース環 (黄銅材)
❸ 鏡胴「前部」ネジ込み停止環 (アルミ合金材)
先日扱ったSonnarでは❷絞り環用ベース環が黄銅材でしたが、このZKモデルではアルミ合金材に変わっています。ところがこの個体の❶絞り環がこの❷絞り環用ベース環から外せません。何回も試みましたが外せず、諦めました。イモネジに締め付け固定ですが、全周で3箇所ネジ込まれているイモネジのうち、ネジがちゃんと効いているのは1箇所だけで、他の2箇所は単にハマッているだけの状態でした。しかしそれらイモネジを取り外しても、この❶絞り環は僅か2mmしか動かず、固まってしまいます。おそらく内側のネジ山が既に潰れているのだと思いますが、外せていないので不明なままです。
↑❶絞り環と❷絞り環用ベース環を適切な位置でネジ込みを停止させてから、❸鏡胴「前部」ネジ込み停止環も、適切な位置で締め付け固定しました。
◉ シリンダーネジ
円柱の反対側にネジ部が備わり、ネジ部が締め付け固定される事で円柱部分が他のパーツと連携させる能力を持ち、互いにチカラの伝達が実現できる役目として使う特殊ネジ (単なる連結のみに限らず多くの場合でチカラの伝達がその役目に含まれる)。
ところがこのシリンダーネジも、おそらく純正ではないと考えます。シリンダーネジは本来円柱のカタチですが、一つの側面だけが削られていてカマボコ型になっていました。つまり❷絞り環用ベース環に用意されている、切り欠き/スリット/溝の幅に合うよう削られていたワケです。
↑光学系前後群を光学清掃後に組み付けました。もちろん最低限必要箇所には最も薄い膜厚にて「反射防止黒色塗料」を再着色しています。
↑光学系前群を光学清掃し格納完了しました。この前玉の露出面側の蒸着コーティング層 (単層膜) の経年劣化進行に伴う劣化が激しく、既に蒸着コーティング層が剥がれている箇所が多いです。そろそろ限界に到達していると考えられますが、コーティング層の薄クモリは生じておらず実用可能状態を維持しています (多少キズは多めの印象)。
↑後群側も光学清掃し格納しましたが、前玉同様蒸着コーティング層の経年劣化進行が進んでいます。いずれにしても次回の整備時には蒸着コーティング層は相当剥がれてしまうと思います。
そもそも戦前の1941年製Sonnarに比べて、明確に蒸着コーティング層の定着が悪く、ロシアンレンズの多くは耐性が低めで剥がれることが多くなっていきます。
↑鏡胴「前部」が完成したので、ここからは鏡胴「後部」の組立工程に移ります。前のほうの解説時に使った掲載写真と同一です。
❶ ヘリコイドオス側筒 (アルミ合金材)
❷ 距離環ローレット (滑り止め/アルミ合金材)
❸ マウント部 (アルミ合金材)
❹ ヘリコイドメス側 (アルミ合金材)
❺ 直進キー環 (アルミ合金材)
❶と❹、❺の構成パーツに刻印されている4桁の数字「1520」は、構成パーツの管理番号です。しかし今だに不明なのは、筐体外装パーツの、例えば❸マウント部のネジ込み量 (ネジ山長) は、先日のSonnarともまるで長さが違うので、このマウント部にも同一の管理番号が付随するべきですが、ありません。これはこの個体に限らず、全ての「ZKシリーズ」及び「JUPITER―3シリーズ」で同一です。どうやってパーツ管理していたのかが思い浮かびませんッ。
↑実際にマウント部 (❸) にヘリコイドメス側 (❹) をネジ込んだ状態で撮影していますが、前述でさんざん説明してきた「❺直進キー環」に備わる「制限壁」の壁に対して、グリーン色の矢印が指し示している位置にカツンとイモネジが突き当たって停止するので「最短撮影距離位置で停止する」設計です。つまりこの反対側の「制限壁」端が無限遠位置という話になりますね。
このことから「距離環は半周しか回っていない」ことが分かります。一方でこの❸マウント部が最後までネジ込まれる必要がありますが、もしも最後まで確実にネジ込みが終わっていなかった場合、必然的に光路長がその分延伸しますからフランジバックが適合せず逸脱します。
これは実際にヘリコイドオス側のネジ込み位置を深くしてしまい、相当なオーバーインフ状態に仕向けておきながら、マウント部 (❸) のネジ込みを最後までしていなかった「ごまかしの整備」と言う個体までありましたから、まさに「何でもアリのロシアンレンズ」と言う言い草になってしまいます。
↑❶ヘリコイドオス側筒をネジ込めます。ご覧のようにグリーン色ラインで明示している箇所の指標値マークがピタリと合致しているのが分かります。
ブルー色の矢印で指し示している箇所のように、距離環に用意されているイモネジ用のネジ穴と、その下穴の位置が合致する必要がありますね。するとご覧のように距離環のブルー色の矢印の真下にもう1つ用意されている太めのイモネジ用の穴に、太いイモネジがネジ込まれて内部に突出するので、オレンジ色の矢印が指し示している箇所の「制限壁の端部分」にカツンと音が聞こえて突き当て停止することで、無限遠位置で停止という仕組みです。
ここからは完璧なオーバーホール/修理が完了したオールドレンズの写真になります。
↑完璧なオーバーホール/修理が終わっています。久しぶりに「ZKシリーズ」を扱うことができ、ご依頼者様に感謝感激です! ありがとう御座いました!
Пコーティングは、ご覧のように既に相当剥がれています。それこそどこぞの企業様が、光学ガラスレンズを加熱することで「自己溶融式定着シート」的なイメージのコーティング層を開発してくれたら、きっとガラス研磨して再コーティングする時代が、いずれ来るのではないかと期待していますッ。
↑光学系内に塵/埃が多く残っているように見られがちですが、このように拡大撮影すると「気泡」であることが一目瞭然です。先日のSonnarに比べて、明らかに「気泡が多い」ことが分かりますから、ソ連での硝材資料溶融時の温度管理などの技術に、まだまだ課題を残していたことが、これだけで理解されます。
◉ 気泡
光学硝子材精製時に、適正な高温度帯に一定時間到達し続け維持していたことを示す「証」と捉えていたので、当時の光学メーカーは正常品として「気泡」を含む個体を出荷していました (写真に影響なし)。
但し、中望遠レンズ以上の焦点距離などのモデルの場合、大きく出現した玉ボケの内側にそれら「気泡」の影がポツポツと写り込む懸念は高くなります。
例えば石英ガラス (合成石英ガラスES) の精製時には、1,400°Cに加熱した石英ガラスを金型に流し込み「その温度帯を60秒間維持させ」そのまま任意の圧でプレッシングを行い、当初の厚みから最終的な目的とする厚みと形状にまで成形します。
このプレッシングしつつ「温度帯を維持させる」時に、当時の工業技術ではどうしても光学硝子材の内部に「気泡」が出現してしまうので、逆にその「気泡の出現を以て初めて温度帯の維持の確証」と判定を下していたようです。特に日本製オールドレンズよりも当時の旧東西ドイツ製オールドレンズの光学系に「気泡が多い印象」なのも、そういった工業技術的な発展経緯の相違があったりするのかも知れません(汗)
ちなみにこの時の石英ガラスのプレッシング工程では、完成後にその検査の一環として屈折率も確認されます。当初プレッシング前の時点で1.455ndであった屈折率は、プレッシング成形後には1.458ndと、僅かながらもプレッシングにより向上する事が確認されています。これはプレッシングによる配合光学硝子資料の圧による高密度化が影響しているとの研究成果に至っており、その意味でも成形金型にプレッシングして成形していく工程にはメリットもある事が確認されています。特に最近では非球面レンズなどの技術革新にもこのような成形技術が転用/活用されているようです。
↑後群側にはバルサム切れも無く良い状態を維持しています。但し、全般的にこの個体の実装光学系は、そろそろ蒸着コーティング層の限界値に到達してきている為、複数の光学ガラスレンズでのコーティング劣化が激しくなりつつあります。バルサム切れの問題以上に、今後その劣化次第では別のクモリが増大していく傾向が現時点で確認できるので、バルサム切れは一端剥がしての再接着に期待が持てる一方、蒸着コーティング層の経年劣化は、蒸着コーティング層を剥がしてからの再蒸着になり、処置できる整備会社はだいぶ限定されます。従ってその時の選択肢は再びの「ニコイチ」ではありませんが、近似する製造年代の同型モデルバリエーション範囲内に限定して、光学系の代替転用も一つの選択に入ります。
つまりこのように本来ヤルべきことをちゃんと追求しながら処置した上で、それでも対応できない場合には「ニコイチ/サンコイチ」も「是」と認められる話になり、何でもかんでも「ニコイチ/サンコイチ」がダメという話ではありません。
↑13枚の絞り羽根もキレイになり、絞り環共々確実に駆動しています。絞り羽根が閉じる際は「完璧に円形絞りを維持」しながら閉じていきます。先日のSonnarを比べると分かりますが、特に最小絞り値まで閉じきった時、この「開口部の円形の大きさ」を比較してみると違いが明白です。
これは市場流通品の話でも特に指摘できる要素なのですが、当方が14年間オーバーホール済みでヤフオク出品してきた中で、明確に最小絞り値の時の、絞り羽根の開閉幅 (開口部の面積/カタチ/入射光量) まで適正である旨、ちゃんと語りながら出品していたのですが、同じようにこだわりをもって出品していた出品者が一人も居ませんでした(笑)
もちろん今回の「ZKシリーズ」もその後の「JUPITER-3シリーズ」或いはそもそもの本家たる「Sonnarシリーズ」も、いずれもこの絞り羽根の開閉駆動を微調整する機能を有していませんから、自ずと一意の最小絞り値の閉じ具合にしか到達しませんが (つまり光学設計と製品設計の関係性で一意に決まって設計されている)、例えば自動絞り方式を採用した「M42マウント規格品」などのオールドレンズの場合には、この絞り羽根の開閉幅の微調整機能を装備していたりしますから、最小絞り値まで閉じた時の「絞り羽根の開口部の大きさの違い」に誰も気にしない点で「それって、認識間違っていませんか???」といつも感じていました(笑)
まさに今回の「Sonnar vs ZK」での絞り羽根の有効開口径の相違点が、そのまま光学設計の一つに活かされていたことを発見した (冒頭で既にご説明済みの内容) ワケですから、着目する角度を見誤ると、まさに今ドキの市場流通品のようにバラバラな最小絞り値のままで「正常作動品」などの謳い文句のままオークションで流れているのでしょう・・(笑)
↑塗布したヘリコイドグリースは「黄褐色系グリース」を使い、当方独自のヌメヌメッとしたシットリ感漂う軽めのトルク感で、掴んでいる指の腹に極僅かにチカラを伝えるだけでピント面の前後微動が適うトルクに仕上げられており、ベストな操作性を実現しています(笑)
途中の写真で赤色矢印で指し示している箇所に「太めのイモネジ」が写っていましたが、そのイモネジが内部の「制限壁」の両端でカツン、カツンと音をたてて突き当て停止しているので、無限遠位置と最短撮影距離位置の両端で停止しているのです。
↑当方所有RICOH製GXRにLMマウント規格のA12レンズユニットを装着し、ライブビューで無限遠位置の確認など行い、微調整して仕上げています。その際使っているのは付属変換リングです。無限遠位置は「∞」刻印ピタリの位置でセットしています (あくまでも当方での確認環境を明示しているに過ぎません)。
《オーバーホール/修理完了後の残った瑕疵内容》
❶ 光学系内に薄く全面に渡るクモリが生じている → 改善不能
❷ 光学系第2群の3枚貼り合わせレンズにバルサム切れ → 改善不能
❸ 鏡胴「前部」の停止位置が2箇所にイモネジ用下穴が用意されている → そのまま
❹ 同様絞り環用ベース感にもイモネジ用の下穴が2箇所用意されている → そのまま
❺ 鏡胴「後部」側手書きマーキング (意味は不明) されている → そのまま
・・こんな感じですが、以下が追加になります、申し訳ございません!
❻ フィルター着脱時に無理に回したりしない、強くネジ込まない留意事項 → ニコイチだから
・・このように3つの瑕疵内容が残ってしまいました。申し訳ございません!
なお❻の理由は鏡筒を「固着剤」で固めているからです。
無限遠位置 (当初バラす前の位置から変更/ピタリの状態)、光軸 (偏心含む) 確認や絞り羽根の開閉幅 (開口部/入射光量) と絞り環絞り値との整合性を簡易検査具で確認済です。
被写界深度から捉えた時のこのモデルの無限遠位置を計算すると「焦点距離:50㎜、開放F値:f1.5、被写体までの距離:65m、許容錯乱円径:0.026㎜」とした時、その計算結果は「前方被写界深度:33m、後方被写界深度:∞m、被写界深度:∞m」の為、70m辺りのピント面を確認しつつ、以降後方の∞の状況 (特に計算値想定被写体の35m付近) をチェックしながら微調整し仕上げています。
何故なら、相当な遠方だけで無限遠位置を確定させても、肝心な理論値としての被写界深度の前後がズレていれば、それは「光学系の格納位置のズレが残ったまま」だからです(笑)・・その意味で理論値たる被写界深度の前後値を基に実写確認の上、無限遠位置の適正化を判定しています (遠方だけではない)。
逆に言うなら、それは「適正な光路長を確保できたのか」との問いに対する答えでもあるので「理論値を基にした前後被写界深度+判定無限遠の三つ巴」でちゃんと実写確認していれば (ピント面の解像度をチェックしていれば) 無限遠合焦していると申し上げても、きっと信じてもらえるのではないかとの企みも含んでいたりします(汗)
・・一言に無限遠位置と述べてもいったいどの距離で検査したのかが不明瞭ですね(笑)
ちなみに被写界深度を基準に捉えて検査するのではなく、純粋に無限遠と呼べる距離から検査するなら「焦点距離 x 2000」なので「100m」になる為、その位置 (判定無限遠位置) でも当然ながら確認済です(笑)
◉ 被写界深度
ピントを合わせた部分の前後で、ピントが合っているように見える特定の範囲を指す
従ってピント面の鋭さ感だけを追っても必ずしも光路長が適正とは言い切れず、それはピーク/山の前後動に付随してフリンジ (パープルフリンジやブルーフリンジなどの色ズレ) 或いは偏芯が現れていても、それで本当に適正と言えるのかとの言い換えにもなります(汗)
・・だから被写界深度を基準にしつつ、無限遠位置を微調整しながら仕上げているのです(汗)
なおこれら計算値に基づく無限遠位置の確認については、その適正をChatGPTでも確認できています。特に流行りの「人口星に頼った自作コリメーター」で、纏わり付くフリンジの類までキチッと確かめられるのか、光学系の格納位置やバルサム剤の接着量までちゃんと微調整できているのか、そういう疑念が残りますし、最低限人工星コリメーターによる検査は「10m以上」の実効距離が必要になります。
なお撮影時の対角画角としては、計算すると35㎜判フルサイズ36㎜ x 24㎜にて「対角画角:56.2466°」になります。
↑当レンズによる最短撮影距離1m付近での開放実写です。ピントはミニカーの手前側ヘッドライトの本当に「球部分」にしかピントが合っていません (このミニカーはラジコンカーなのでヘッドライトが点灯します)。カメラボディ側オート・ホワイト・バランス設定はOFFです。
各絞り値での「被写界深度の変化」をご確認頂く為に、ワザと故意にピントはミニカーの手前側のヘッドライト、本当に電球部分に合わせています。決して「前ピン」で撮っているワケではありませんし、光学系光学ガラスレンズの格納位置や、向きを間違えたりしている結果の描写でもありません (そんな事は組み立て工程の中で当然ながら判明します/簡易検査具で確認もしています)。またフード未装着なので場合によってはフレア気味だったりします。
↑f値「f8」ですが、僅かに「焦点移動」が始まっているように思います。
◉ 回折現象
入射光は波動 (波長) なので、光が直進する時に障害物 (ここでは絞り羽根) に遮られると、その背後に回り込む現象を指します。例えば、音が塀の向こう側に届くのも回折現象の影響です。
入射光が絞りユニットを通過する際、絞り羽根の背後 (裏面) に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなる為に解像度やコントラスト低下が発生し、眠い画質に堕ちてしまいます。この現象は、絞り径を小さくする(絞り値を大きくする)ほど顕著に表れる特性があります。
◉ 被写界深度
被写体にピントを合わせた部分の前後 (奥行き/手前方向) でギリギリ合焦しているように見える範囲 (ピントが鋭く感じる範囲) を指し、レンズの焦点距離と被写体との実距離、及び設定絞り値との関係で変化する。設定絞り値が小さい (少ない) ほど被写界深度は浅い (狭い) 範囲になり、大きくなるほど被写界深度は深く (広く) なる。
◉ 焦点移動
光学ガラスレンズの設計や硝子材に於ける収差、特に球面収差の影響によりピント面の合焦位置から絞り値の変動 (絞り値の増大) に従い位置がズレていく事を指す。
↑「f16」です。既に絞り羽根が閉じきる直前なので「回折現象」の影響まで現れ、コントラストの低下を招いています。
↑最小絞り値「f22」での撮影です。今回のオーバーホール/修理ご依頼、真にありがとう御座いました。明日まとめて梱包しクロネコヤマト宅急便にて発送申し上げます。どうぞよろしくお願い申し上げます。




















